
酸化防止剤〜食品の風味や色、保存性を長持ちさせる添加物|体への影響や市場ニーズも紹介
食品の品質劣化の主な原因の一つが、食品に含まれる成分の「酸化」です。酸化が進むと、食品は色や風味が損なわれるだけでなく、栄養価が減少したり、酸化によって発生した過酸化物が原因となり、吐き気や嘔吐などの中毒症状を引き起こすこともあります。
今回は、食品の酸化を防ぐための「酸化防止剤」の活用法やそのメリット、体への影響、さらに世界規模でのニーズや動向についても紹介します。本記事を参考に、開発テーマや条件にあった原料をぜひ見つけてください。
酸化防止剤とは
酸化防止剤は、食品の酸化を防ぐために使われる添加物です。食品が空気中の酸素に触れることで酸化が進むと、色や風味が変化し、栄養価も低下します。主な品質劣化として挙げられるのものは、糖類を含む食品でおこるメイラード反応や、油脂の劣化による色調変化や不快臭の発生です。酸化防止剤は、こうした劣化を防ぎ、食品の品質を保つために使用されます。
つまり、酸化防止剤は、食品の成分に代わって自ら酸化されることによって、食品の品質の低下を防ぎます。
酸化防止剤として使われるビタミンC、ビタミンE
ビタミンCやビタミンEは、栄養強化の目的のほか、酸化防止剤として食品に使われることも多くあります。栄養強化を目的とした場合は表示が免除されますが、酸化防止剤として使われている場合は「ビタミンC」「ビタミンE」もしくは「V.C.」「V.E.」の表記が必要です。
代表的な酸化防止剤と食品例
酸化防止剤は、大きく分けて「脂溶性」と「水溶性」の2つに分類されます。食品に含まれる成分に適した酸化防止剤を適切に使用することが大切です。
脂溶性酸化防止剤
油に溶けやすく、主に油脂の過酸化物の発生を抑える目的で利用されることが多いです。
種類 | 特徴と主な用途 |
---|---|
BHA(ブチルヒドロキシアニソール) |
p-ヒドロキシアニソールにtert-ブタノールを反応させて作られる。浸透性が高く、酸化防止効果はBHTと同等又はそれ以上とされている。
<主な用途>油脂、バター、魚介乾製品・塩蔵品・冷凍品、鯨肉冷凍品など |
BHT(ジブチルヒドロキシトルエン) |
p-クレゾールとiso-ブチレンから化学的合成により作られる。一般的には、クエン酸やアスコルビン酸などの他の酸化防止剤と併用することが多い。
<主な用途>油脂、バター、魚介乾製品、魚介塩蔵品・冷凍品、鯨肉冷凍品、ガムなど |
トコフェロール(ビタミンE) |
植物の体内に存在し、不必要な酸化を抑制するビタミン。植物油脂から分離、精製して製造され、化学的合成により生まれるdl-α-トコフェロールにも使われる。
<主な用途>水産加工品、食肉加工品、菓子、油脂、清涼飲料水など |
香辛料抽出物(ローズマリー抽出物) |
ローズマリーの葉又は花から抽出、精製して製造される。
<主な用途>動物性や植物性の油脂など |
水溶性酸化防止剤
水に溶けやすく、主に変色を防ぐために用いられることが多いです。
種類 | 特徴と主な用途 |
---|---|
L-アスコルビン酸(ビタミンC) |
ブドウ糖を原料として、発酵により製造される。食品中で酸化されると、酸化剤の働きも持ち、品質改良剤としても利用されている。
<主な用途>果実加工品、漬物、そう菜、パンなど |
亜硫酸塩(二酸化硫黄など) |
化学的合成によって作られ、酸化防止剤としての目的以外に漂白剤として利用されている。
<主な用途>ワインなど |
カテキン |
緑茶の葉などから抽出した後、水又はエタノールで抽出、精製して作られる。
<主な用途>水産加工品、食肉加工品、菓子、油脂、清涼飲料水など |
※参考 東京都保健医療局「食品衛生の窓」
大阪健康安全基盤研究所「食品を酸化から守ってくれるもの、酸化防止剤」
酸化防止剤を活用するメリット5つ
酸化防止剤により食品の品質劣化が抑えられることで、さまざまなメリットが生まれます。
1.できたてのおいしさ、色の保持
酸化防止剤は、食品が酸化するのを防ぎ、色や風味が変化するのを抑えます。これにより、新鮮な味わいや見た目を長時間保持できます。
2.食品の安全性向上
酸化防止剤は、酸化による有害物質の生成を抑制する働きがあり、食品の安全性が向上します。
3.賞味期限の延長による生産・保管・輸送の効率化
酸化防止剤を使用することで、食品の賞味期限が延びるため、製造から消費までの期間が長くなります。これにより、物流や保管、輸送の効率が向上し、供給チェーン全体のコスト削減に繋がります。
4.おいしさの保持による食品ロス削減・コスト削減
酸化防止剤の使用により、食品の品質を長期間保つことができるようになります。これにより、食品ロスが削減されるとともに、企業のコスト削減にもつながります。
5.廃棄物削減による環境負荷低減、サステナビリティへの貢献
酸化防止剤を使用することで食品の廃棄を減らすことができ、結果として廃棄物の発生が抑制されます。これにより、環境への負荷が軽減され、サステナブルな社会の実現に貢献できます。
酸化防止剤は体に悪い? 体への影響や安全性(危険性)は
酸化防止剤に限らず、多くの食品添加物については安全性評価が行われています。添加物、および、農薬等に使用される物質の安全性評価は食品安全委員会(2003年設立)により中立な立場で行われています。それ以前に流通していた食品添加物については、厚生労働省により評価が行われて使用基準が設定されていて、基準内で使用されている限り体への影響は無視できるものとされています。
使用基準や許可については一度決めたらそのままではなく、新たな科学的知見やリスクの発生により適宜再評価が行われる仕組みもあります。
食品安全については「ゼロリスク=完全に安全な物質」というのは科学的に有り得ないという大前提があり、すべての物質には一定のリスクがあることを理解することが必要です。食品安全を考えるとき、すべての物質は危害要因の大きさと摂取量の関係によって決まるため、入っているか入っていないかだけで判断できるものではありません。
また、「自然由来だから安全、合成物質だから危険」という考え方はイメージ的なものであり、科学的な根拠はありません。自然由来の動植物や海産物にも毒性のある物質が含まれていることがあるため、「天然物=絶対安全」とは言えません。安全性評価については市場に出回ったときに想定される摂取量(暴露量)も加味して議論が行われます。
一方で、食経験が豊富なもの(昔から摂取されているもの)については、それ自体が安全性の根拠となることがあります。酸化防止剤でいえばビタミンCやビタミンE、カテキンなどが該当します。当然ですが、これらにおいても過剰な摂取には気を付ける必要があります。
酸化防止剤の発がん性
日本において、食品添加物の使用については厳格な法的基準が設けられていて、食品衛生法に基づいて、安全性が科学的に確認されたもののみが使用を許可されています。
代表的な酸化防止剤には、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)やBHT(ブチルヒドロキシトルエン)などがあります。一部の動物実験では、これらの物質を高用量で長期間投与した場合に発がん性が報告されたケースがあります。しかし、これらの実験で用いられた用量は、食品中で実際に使用される濃度とは大きく異なり、通常の食事で摂取する量では発がん性リスクが非常に低いとされています。食品添加物等の評価では、最大無作用量などを知るために、あえて高容量の食事を与える実験を行うことがあります。こうした実験から体に影響のない摂取量を知り、その値から十分に余裕のある(より低濃度)なADI(許容一日摂取量)を設定することになります。
国際的な基準として、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)や欧州食品安全機関(EFSA)などの科学的評価機関が、それぞれの添加物の安全性を詳細に評価し、許容摂取量(ADI)を設定しています。日本でも、これらの評価結果を基に厚生労働省が食品添加物の使用基準を定めています。
業界従事者としての留意点
1.規制の遵守
許可されている酸化防止剤は、使用基準や最大使用量が厳格に定められています。規定を正確に把握し、食品中の濃度が基準内であることを確実にする必要があります。
2.消費者の安心感への配慮
消費者の中には、添加物への漠然とした不安を抱く方もいます。そのため、使用する酸化防止剤の目的や安全性に関する情報を積極的に伝えることで、透明性を高め、信頼を得ることが重要です。
3.科学的知見の更新
食品添加物の安全性に関する科学的知見は日々進化しています。業界従事者として、最新の研究や規制の変更に関心を持ち、必要に応じて製品設計や運用を見直すことが求められます。
食品業界における酸化防止剤の適切な使用は、製品の品質保持だけでなく、消費者の健康と信頼を守るためにも非常に重要です。引き続き、法規制を順守しつつ、安全で安心な食品づくりに取り組んでいきましょう。
ワインに使われる酸化防止剤(亜硫酸塩)
ワインの酸化防止剤として最も一般的に使用されるのは、亜硫酸塩です。亜硫酸塩は、二酸化硫黄 (SO2) を水に溶かしたもので、強い抗酸化作用と殺菌作用を持ちます。ワインは空気に触れると酸化し、味が劣化してしまいます。そのため、亜硫酸塩を加えることで酸化を抑制し、ワインの色が褐色に変化したり、独特の香りが損なわれたりするのを防ぎます。
また、亜硫酸塩には雑菌の繁殖を抑える効果があります。ブドウの果皮には、ワインの発酵を阻害したり、異臭を発生させたりする雑菌が付着しています。酸化防止剤には殺菌効果があり、これらの雑菌の繁殖を抑え、ワインの品質を長期的に安定させることができます。特に酢酸菌の繁殖を抑えることでワインが酢のように酸っぱくなってしまうことを防いでいます。
亜硫酸塩は、しばしば「体に悪いもの」というイメージを持たれていますが、ワインに使用される程度の量であれば、健康に悪影響を与えるリスクは低いでしょう。また、酸化防止剤無添加のワインもありますが、酸化しやすいため品質管理が難しいという側面もあります。これらの効果により、私たちは美味しいワインを長く楽しむことができるのです。
酸化防止剤の世界市場は拡大傾向
「Global Market Insights」の市場調査レポートによると、食品酸化防止剤の世界市場は、2023年に32億米ドル規模でしたが、2024年から2032年の予測期間中に年平均成長率5.5%以上で成長する見込みです。この成長は、酸化防止剤が広く使用される加工食品、特にベーカリーや菓子製品の需要と消費の増加に起因していると考えられています(※)。
物流の効率化や原材料費の高騰、食品ロスの削減が課題となっている日本において、食品の鮮度を維持し、長期保存が可能な状態にすることは、これらの問題を解決するための一助となるでしょう。本記事を参考にして、最適な酸化防止剤をぜひ見つけてください。
※参考:Global Market Insights「食品酸化防止剤 市場規模・シェア | 成長トレンド 2032」
酸化防止剤のご紹介
水産・畜肉加工食品(ミオグロビンを多く含む)における変色抑制効果に優れた酸化防止剤です。「果実酸」を厳選し、独自の配合で高い効果を発揮。食品の風味を損ねることなく、食品本来の美しい色調を保持します。
脂溶性成分「ビタミンE」と難溶性結晶物「ビタミンCパルミテート」、さらに、厳選した「果実酸」の相乗効果によって酸化防止効果を高めた強力な酸化防止剤です。水に均一分散可能な粉末製剤で、ビタミン臭を低減しており飲食品の風味への影響が少ないのが特長です。
関連記事:賞味期限を延長させる原料|酸化防止で食品ロスを削減【扶桑化学工業】
従来、ビタミンC単独では酸化防止効果が弱かった飲食品に対して、ビタミンCとのシナージスト効果が高い果実酸との組合せにより、強力な酸化防止効果を発揮します。 食品の味への影響も少なく、リンゴ、モモ、バナナ、ごぼう、さといも、じゃがいも、白菜など幅広い食品に使用できます。
緑色ボイル野菜の変色抑制と日持ち向上に最適な製剤です。緑色ボイル野菜のクロロフィルを安定化し、変色を抑制します。適正なpH調整により、変色抑制と微生物制御を両立。味への影響も少ないため、さまざまな緑色ボイル野菜にご使用いただけます。※消費者向けに販売される生鮮食品には使用できません。
果物や野菜の変色抑制に最適な製剤です。優れた変色抑制機能で食品本来の鮮やかな彩りを保持します。食品の味への影響が少なく、幅広い食品に使用可能。浸漬・添加・塗布・噴霧などさまざまな使用方法に対応します。※消費者向けに販売される生鮮食品には使用できません。
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