
惣菜市場はさらなる拡大へ。日本惣菜協会に聞く「中食」の未来
家庭での調理や外食に並ぶ「第三の食」として存在感を高めている「中食」。中食は、外部で調理された料理を持ち帰り、自宅や会社など任意の場所で食べるスタイルであり、その代表が「惣菜」です。スーパーやコンビニの惣菜売り場は日々進化し、私たちの食生活に欠かせない存在となっています。
この背景には、共働き世帯や単身世帯の増加、高齢者層の利用拡大といった社会の変化があります。忙しい日常の中で「手軽においしく食事をとりたい」というニーズを反映した結果といえるでしょう。
中食の市場規模(資料提供:一般社団法人日本惣菜協会)
一方で、人手不足や健康志向への対応、ロボット化の推進など、惣菜業界が直面する課題も少なくありません。
そこで今回は、一般社団法人日本惣菜協会 専務理事の清水誠三(しみず・せいぞう)さんに、協会の活動内容から市場の最新動向、そして今後の展望までじっくりお話を伺いました。惣菜の現状と未来を知ることで、商品開発のヒントが見えてくるかもしれません。
目次
- 協会の活動概要と資格「惣菜管理士」とは
- 惣菜市場の動向と消費者ニーズ
- 技術革新と食品ロス削減への取り組み
- 惣菜市場のこれから
お話を聞いた人
一般社団法人日本惣菜協会 専務理事
清水誠三さん
協会の活動概要と資格「惣菜管理士」とは
── まず、日本惣菜協会ではどのような活動をされているのでしょうか。
清水さん:食のマーケットは70兆円規模で、「家庭内食」「外食」と並んで「中食」があり、中食市場は右肩上がりで成長しています。家庭内食とは自宅で調理して食べる食事、外食とはレストランや飲食店で調理されたものをその場で食べるスタイルを指します。そして、中食は外部で調理された料理を購入して持ち帰り、自宅や会社など任意の場所で食べる形態になります。
現在、当協会には企業720社が加盟しています。近年加盟社数が増えていることも、市場が拡大している証拠といえるでしょう。
協会としては、市場のさらなる拡大や経営環境の改善を目指し、行政との調整や施策立案を行っています。また、現場ではまだ手作業が多いため、ロボット化の普及・推進に力を入れています。人手不足の対応として、受け入れが拡大している外国人労働者や特定技能実習生についても、安全で良い環境で働けるような環境整備に関する取り組みを進めています。
── 人手不足を背景に、技術導入や制度の整備まで幅広く対応されているのですね。
清水さん:そうですね。さらに人材育成にも力を入れていて、「惣菜管理士」資格試験制度を設けて30年以上が経ちます。食品衛生や栄養学、原料管理、食品表示など幅広いカリキュラムを含む資格で、毎年3,500名が受験し、現在3万7,000人の有資格者がいます。大手食品メーカーの新入社員が必ず受験するケースもあり、最近は機械メーカー、外食企業など幅広い業界からの受験も増えています。
また、調査研究事業として「惣菜白書」を毎年発刊しています。企業は100社、消費者としては男性3,000人と女性3,000人の調査を行っています。これを元に、消費者ニーズを把握し、各企業が商品開発のトレンドなどに生かしておられます。
惣菜市場の動向と消費者ニーズ
―― ここ数年の惣菜市場の動向についてはいかがでしょうか。
清水さん:コロナ禍では一時的に市場規模が縮小しましたが、その後回復し、2021年以降は再び成長基調にあります。2024年の最新データでは、市場規模は11兆2,882億円と過去最高の数字になりましたが、消費者物価指数の上昇を考えると、全体売上の伸びは鈍化しています。ここには地方百貨店の閉店も影響していると考えています。
一方で、スーパーの惣菜売り場は拡大していて、スイーツやピザ、おにぎり、お好み焼きなどの商品が伸びています。
―― たしかに、スーパーの惣菜売り場では、売り場面積が拡大して、品揃えもどんどん良くなっている印象です。
清水さん:そうですよね。手作りや「できたて」をPRする商品も人気です。お好み焼きや卵焼きが人気を集めているのは、売り方も関係していると感じています。
最近注目を集めているのは、スイーツです。SNS映えする商品や地方スーパーのヒット商品が全国に広がる例もあります。私たちの惣菜業界では「ヒット商品や売り方があれば、それを真似すると成功しやすい」とよくいわれています。
たとえば、宮城県仙台市にある秋保温泉の「主婦の店さいち」では、おはぎ売場が大人気です。小さな規模のスーパーですが、繁忙期にはおはぎが20,000個も売れています。全国の惣菜メーカーが参考にする商品のひとつです。
―― ヒット商品を真似することで中食の市場を盛り上げていく、ということですね。
清水さん:はい。しかし、中には上手く進まないケースもあります。見た目は似たような人気商品であっても、「安いけれどおいしくない」商品は当然売れません。また、特定の商品で大規模な食中毒事故などが起こると、その企業だけの問題ではなく、全国的に、同一のメニューが一気に売れなくなり、業界全体に影響していきます。
―― 健康志向が高まっていますが、健康をPRした商品の売れ行きはいかがでしょうか。
清水さん:消費者アンケートでは、「栄養バランスが良いもの」「野菜が多いもの」を購入したいという意見が多く、「たんぱく質が多いもの」「食物繊維がとれるもの」といったニーズも強くあります。一方で、健康志向の商品は、「栄養士監修」「減塩」などと書くだけでは、意外と売れにくいと感じています。
消費者は“自然な健康”を求めていて、たとえば、「適塩」「出汁香る」など、おいしさにつながるような表現が効果的で、表現を変えるだけで売れやすくなる傾向があります。
技術革新と食品ロス削減への取り組み
世界初惣菜盛付全工程ロボット化・現場実装(資料提供:一般社団法人日本惣菜協会)
―― 惣菜市場が伸びていることや、最近の傾向がよくわかりました。一方で、課題はありますか?
清水さん:はい。現場は依然として手作業が中心で、人手不足は深刻です。惣菜業界で仕事に従事している人は全国で約120万人といわれていますが、そのうち「盛り付け」をしている人が30万人ほどいるのではと予測しています。
人材不足を解消するために、現場ではロボットやAIの導入を進めています。たとえば、自動計量・パック詰めは誤差5%程度に抑えられるようになり、AIカメラを使った盛り付けロボットや、自動搬送ロボットなども登場しています。
―― 惣菜業界においても、AIの活用が進んでいますね。では、サステナビリティや食品ロス削減という意味でどんな取り組みが進んでいますか。
清水さん:食品ロス削減に向けては、ある企業では、AIが1週間後の需要予測を行い、製造量を調整する取り組みが始まっています。現在でも「前日に必要な惣菜を発注する」というのが一般的で、メーカーも欠品するわけにはいかないので、見込み数量で多めに製造するために、どうしても食品ロスが発生してしまいます。
また、近年は、子ども食堂へ惣菜を提供する事例などもあり、サステナビリティの面でも努力が続けられています。子ども食堂に届ける運搬の仕組みも、お互いに連携しながら進めています。
―― 効率化と同時に、社会的な課題にも応える取り組みが進んでいるのですね。
惣菜市場のこれから
「中食」を代表する惣菜は、ライフスタイルの変化や高齢化、単身世帯の増加とともに、今後も需要拡大が見込まれています。手作り感やできたての魅力に加え、ロボット化やAIによる効率化、サステナブルな取り組みが進むことで、さらなる成長が期待されます。
清水さんのお話からは、惣菜が単なる便利な食ではなく、食文化を支える重要な存在へと進化している姿が浮かび上がりました。
そして、こうした変化の中には、新しい商品やサービスを生み出す大きなチャンスも隠れています。惣菜市場の動向に着目することで、新たな食品開発のヒントが見つかるかもしれません。
取材協力:一般社団法人日本惣菜協会(公式サイト)

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