
特集|カカオ代替原料〜価格高騰の背景と、栄養価・健康効果も紹介〜
チョコレートやココアの原料として知られる「カカオ」は、いまや化粧品や食器など幅広い製品に使用されています。ところが、近年ではさまざまな理由から価格が高騰しているのをご存じでしょうか?
この記事では、カカオの栄養素を含めた利用価値や、カカオ原料高騰の背景、商品開発時におけるコスト削減のヒントについてご紹介します。すでにカカオ原料を使用している企業様だけではなく、これから導入を検討してる企業様にも役立つ情報となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
【管理栄養士監修】カカオとは?|さまざまな呼称や栄養価も解説
カカオとは、高温多湿の地域で栽培されるアオイ科(アオギリ科)の熱帯植物で、西アフリカ・東南アジア・中南米などの平均気温27度以上で、年間を通じて気温の上下幅が狭い限られた地域で栽培されています。
枝や幹に白い花(品種によっては、桃色、赤色、黄色)を咲かせ、受粉後6カ月ほどかけて実が成熟し、だいたい直径10cm、長さ20cm前後のものが収穫され、その種子が、チョコレートやココアなどの主原料として利用されます。
昔は王や貴族といった位の高い人しか口にできなかったことから、「テオブロマ(=ギリシャ語で神様の食べ物)・カカオ」という学名がついています。
そんなカカオは、さまざまな加工を経て食品として利用されています。
※参考:日本チョコレート・ココア協会「栽培地域と品種」「結実から出荷まで」
いくつもあるカカオの呼称
カカオポッド
まず、カカオの実そのものは、カカオポッドと呼ばれます。一般的に知られているラグビーボール型に限らず、品種によっては歪んだ形や三角形に近いものもあります。また、外皮の色も赤色、黄色、緑色などカラフルという特徴があります。
カカオポッドを割ると、中から白っぽい果肉に包まれた種が20個以上も姿を現します。これがカカオ豆(カカオビーンズ)であり、果肉部分はパルプと呼ばれます。これらは1週間ほどの発酵・乾燥を経て、各地へ出荷されて食品に加工されていきます。
カカオニブ
カカオ豆を焙煎して砕くと、硬い殻の部分とその中身に分かれます。殻はカカオハスク(外皮)、それ以外をカカオニブと呼びます。
カカオニブに甘味はなく、苦味や酸味が強く感じられます。チョコレートを作る際は、このカカオニブをすり潰して液状にしたものに砂糖を加えて練り上げ、冷やし固めて作られています。
なお、チョコレートのパッケージに表記される「カカオ〇%」は、製品中に含まれるカカオニブの割合を指します。そのため、カカオニブの含有量が高いほど、甘味が少なく、苦味や酸味のある味わいに仕上がるのです。
※参考:森永製菓株式会社「カカオは日本で育つのか? 栽培編」
※参考:Dandelion Chocolate 公式サイト「スーパーフード「カカオニブ」とは?」
カカオマス
カカオニブは粗く砕かれた形状をしていますが、これを滑らかにすり潰したものはカカオマスと呼ばれます。
カカオマスに含まれる脂肪分は50%以上もあり、それらはカカオバター(ココアバター)として分離され、脂肪が除かれたものを乾燥・粉砕したものがココアパウダーとなります。
カカオバターは、チョコレートに加えることで滑らかな口どけを生み出すのに役立ちます。また、体温より低い温度で溶ける性質などを生かし、食品以外にも化粧品や薬剤などに使われています。
カカオハスク
カカオハスクは、カカオの種を覆っている外皮にあたり、繊維を多く含むため硬い食感をしています。雑味を与えたり、滑らかなチョコレートの食感には不要なため、カカオニブを取り出す際に風や振動を与えて取り除かれてしまうのです。そんなカカオハスクは、メーカーによっては、家畜の飼料や畑の肥料、または燃料として使われています。
現在も多くが利用されずに廃棄されているカカオハスクですが、最近ではカカオハスクを利用して食器や雑貨に生まれ変わらせたり、カカオハスクの色素を活用した染物が誕生するなど、アップサイクル素材として注目を集めています。
※参考:Hallo,Chocolate(ハローチョコレート)「カカオハスクとは?カカオハスクに関してやアップサイクについても解説」

カカオからつくられているもの
「カカオ」と一言で言っても、次のようにさまざまな部位が異なる用途で使われています。
名称 | 部位や状態 | 用途 |
---|---|---|
カカオパルプ | カカオの果肉 | そのまま食べる、ジュース |
カカオハスク | カカオの種皮 | 飼料・肥料・燃料・日用品の素材 |
カカオニブ | カカオの胚乳 | そのまま食べる、菓子や料理の材料 |
カカオマス | カカオニブをすり潰したもの | チョコレート(主原料) |
カカオバター | カカオマスの一部(脂肪分) | チョコレート(原料)、薬剤・化粧品の素材 |
カカオパウダー | カカオマスの一部(カカオマスからカカオバターを取り除いたもの) | 飲料や菓子の材料 |
カカオの健康効果と栄養価
そもそも、カカオが「神様の食べ物」と称されてきたのには理由があり、高い健康効果を持つことが昔から知られていたからなのです。
カカオの原産地は、マヤ文明が生まれ、アステカ王国があったメキシコ南部から中央アメリカにかけての地域とされています。紀元前1,000年以上も前から存在していた痕跡が見つかっており、飲料としての利用や、のちには貨幣として使用された時代もあります。
また、薬としての使用は現代でも続いており、主な効果としては次のようなものがあります。
- 疲労回復
- 滋養強壮
- 精神高揚(※1)
栄養価の面では、ビタミンCとビタミンB12を除いた各種ミネラルやビタミンが含まれているという特徴があります。(※2)
特に、1日の必要量に対して多く含まれているものには、銅・カルシウム・ビタミンB2・パントテン酸・カリウムがあります。これらの栄養素には、貧血を防ぐ、免疫力を高める、骨や歯を丈夫に保つ、代謝や発育を促進する、皮膚や粘膜の健康を維持するなどの働きがあります。
なお、一般的にカカオに砂糖と乳製品を加えて作られる「ミルクチョコレート」よりも、カカオを70%以上含む「スイートチョコレート」のほうが多くの栄養素で含有量が多くなっています。(銅・カリウム・マグネシウム・鉄・食物繊維などは2.9~3.8倍)
そのことから、カカオそのものの栄養素はさらに高い、ということが言えるでしょう。
このほか、カカオポリフェノールやテオブロミンなどの特徴的な成分も含まれており、体内の過剰な活性酸素を消去する抗酸化作用やリラックス効果、冷えの改善作用(※3)などを持っていることが知られています。
また、カカオポリフェノールには肥満を抑えたり、生活習慣病の予防効果があるといった報告もあり、現在もさまざまな研究が進められています。
※1参考:日本チョコレート・ココア協会「チョコレートの始まり(アステカにおけるカカオの用途)」
※2参考:文部科学省「食品成分データベース」(「日本食品成分標準表(八訂増補)2023年版」における「ミルクチョコレート」「スイートチョコレート(カカオ増量)」参照)
※3参考:日本チョコレート・ココア協会「Q12 チョコレート・ココアには「カフェイン」が含まれていると聞きますが、子供や妊婦が食べても大丈夫ですか?」
異常気象、ウイルス、人手不足…カカオ価格高騰の背景
このように、多くの利用方法やメリットのあるカカオですが、最近では価格の高騰が深刻化しています。その背景には、近年の異常気象が主な原因として挙げられていますが、それ以外にもいくつもの要因が絡み合っています。
カカオ豆の生産量は、西アフリカに位置するコートジボワールやガーナが世界の半分を占めています。ところが、2023年末から大雨・洪水・干ばつなどが増え、木を弱らせるウイルスの蔓延や、病虫害の発生により劇的な不作となってしまいました。
また、カカオ農家の人手不足も要因として挙げられます。カカオの生産地では、カカオで得られる利益が小さいため、ほかの農作物に切り替える動きや、後継者不足の問題を抱えていることが指摘されています。
さらには、カカオの高騰に伴い、投資家の市場への資金投入も価格高騰に拍車をかける事態になっています。
※参考:lecker-lecker(レッカーレッカー)「カカオ豆の高騰について」
※参考:Yahoo!ニュース「カカオ価格が1年間で3倍以上に――“カカオショック”が長期化するとみられる理由」
カカオ豆価格の推移
では、カカオ豆の価格は実際にどのような変動があったのでしょうか。
引用:世界経済のネタ帳より
グラフを見てもらえば一目瞭然ですが、2024年に入ってすぐから急激に価格が上昇を始め、4月に過去最高値を記録しています。3カ月前と比べると、2倍以上の価格となっています。その後、短期間に価格の上下を繰り返し、12月には、同年1月と比べて2.3倍まで値上がりしました。
ここ一年間で相場価格が倍以上になるなど、過去にない高騰を見せているカカオ。新しくカカオの木を栽培するにしても、実をつけるようになるまでに4~6年はかかると言われているため、価格の高騰は今後も継続していくと予想されています。
カカオを使った商品開発アイデア
そうした状況であっても、各国で人気のあるカカオは幅広い食品で利用されています。カカオの高騰した分を価格にのせて販売することは簡単ですが、少しでも原料費を抑えて開発する使命をお持ちの企業様も多いのではないでしょうか?
ここからは、商品開発のアイデアをご紹介します。
原料を一部置き換える、代替する
一つは、商品に使用するカカオの一部もしくはすべてを、別の原料に置き換える方法があります。たとえば、チョコレートをつくる際に使われるカカオバターの代わりに、パーム核油やヒマワリ油を利用したり、チョコレートに似た香りや成分を持つ植物からカカオ不使用のチョコレート風製品を開発したりと、新商品が続々と誕生しています。
各社の研究開発によって、カカオならではの成分や香り、食感などは、ほかの原料を使っても従来品に近づけることが可能となっています。
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カカオの量を減らしてエンハンスする
もう一つは、エンハンス原料を用いてカカオ風味を増強する方法があります。これによりカカオの量を減らしても、おいしさを維持することができます。
カカオの割合で商品価値を高めるのではなく、他社との差別化を図ることが可能です。
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カカオの代替品|国内・海外の事例
すでに国内外では、高騰するカカオに替えてほかの食品を使ったチョコレートの開発が進められています。ここでは、商品化されている商品や代替法などを中心に各国の動きを紹介します。
【広島県広島市】焙煎ごぼうを使用し、カカオ不使用のチョコレート風商品を開発
広島県広島市にある企業では、ごぼうを使ってチョコレート風の商品を販売しています。
研究開発の途中で、皮ごと焙煎したごぼうがチョコレートと似た香りを持っていることを発見。研究を重ね、チョコレートの香りと同じ香気成分が複数含まれている点に着目して試作を100回以上行い、カカオをまったく含まずしてチョコレートに近い香りを作り出すことに成功しました。
さらに、後味や口どけなどにも徹底的にこだわり、言われなければごぼうだとわからない程のおいしさを実現したのです。
【大阪府泉佐野市】チョコレートに使われるカカオバターを植物油脂で代用
国内の業務用チョコレートを手がける企業では、チョコレートに使われているカカオバターからパーム油などを主原料とした植物油脂に置き換える動きが進んでいます。(※1)
チョコレートの柔らかさや溶ける温度を調節することができ、テンパリング(温度を調整して油脂の結晶の大きさをコントロールすること)が不要であったり、ブルーム(急激な温度変化による油脂の結晶が肥大化すること)が起こりにくいなど、扱いやすい上にチョコレートの味の劣化を防ぎやすいというメリットもあります。(※2)
国内だけでなく、特に東南アジアでの需要が伸びています。
※1参考:不二製油グループ本社株式会社「2025年3月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」
※2参考:Moglab(食と農の楽しさを伝えるWEBマガジン)「チョコレートの裏側に迫る!バレンタインに披露したい、なるほど豆知識。」
【イギリス】そら豆をカカオ豆と同じ方法で発酵させ、チョコレート風商品を開発
イギリスにある企業では、そら豆をカカオと同じように発酵させ、乾燥、焙煎、粉砕してチョコレートに使用するカカオパウダーの代用品を作っています。
おいしさはもちろん、カカオに比べて大幅に環境への負荷が少ないそら豆を採用することで、CO2の排出量を減らすことにも貢献しています。
そら豆以外の豆でも応用可能な技術開発が進められており、そら豆が調達できない場合にはほかの豆でも代用できる可能性があります。
※参考:Framtiden「ソラマメから代替チョコレートを生産する英Nukoko、原料大手Döhlerとの提携を実施」
【ドイツ】オーツ麦とひまわりの種を使って、チョコレート風商品を開発
ドイツにある企業では、オーツ麦とひまわりの種を伝統的なビール作りと同じ方法で発酵させ、焙煎、濃縮加工することで、カカオを使わずにチョコレートの代用品を作っています。
糖分を減らして作るにも関わらず、口どけの良さや濃厚な風味が味わえるという特徴があります。
大手チョコレートメーカーや航空会社と提携しており、ドイツ国内の主要スーパーマーケットでは、すでに商品として入手することができるようになっています。
※参考:ix+(イクタス)「チョコレートにフードテックの波あり。あたらしいおいしさや生産性を可能にする最新技術とは?」
※参考:New Venture Voice「【Planet A Foods】カカオを使わずにチョコを生産するドイツのスタートアアップを紹介!」
【イタリア】キャロブを使って、チョコレート風商品を開発
イタリアにある企業では、チョコレートに似た風味を持つキャロブを乾燥させ、粉末状にしてチョコレートの代用品を作っています。
キャロブとは、イナゴマメとも呼ばれるマメ科の作物のこと。もともと増粘安定剤やゲル化剤の原料として使用されているのですが、その廃棄される部分をアップサイクルとして活用しています。
また、自然な甘味を含んでいることから砂糖をあまり使用する必要がなく、健康面でのメリットも得られます。加えて、カカオに比べてキャロブの栽培ではCO2の排出量や水の使用量が大幅に減らせる、という環境面への影響が大きい点にも注目です。
※参考:料理通信「代用品を超えた?マメ科植物キャロブで作るチョコでカカオ危機を乗り越える!」
【アメリカ】ブドウの種などを使って、チョコレート風商品を開発
アメリカにある企業では、ブドウの種を活用し、カカオを使わないチョコレートの代用品を作っています。ブドウの種は、ワイン製造で破棄されてしまうものを利用することで、アップサイクルとしての面も持っています。
※参考:Framtiden「米Voyage Foodsがカーギルと提携、持続可能なカカオフリーチョコレートの拡販へ」
シェアシマ掲載の「カカオ代替原料」をチェックする
「カカオショック」とも呼ばれるほどのカカオの価格高騰する現代において、カカオ頼みの商品開発はますます困窮していくものと思われます。それに伴い、今まであまり注目されていなかった食品や成分が、次々とカカオの代替品として脚光を浴びるようになっていくでしょう。
ご紹介した内容を参考に、カカオを使った商品開発を考えている人や商材をお探しの方に役立ててもらえれば幸いです。
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多田ゆかり
大学卒業後、一般企業に就職。出産・子育てを経て、2019年からフリーランスの管理栄養士として活動を始める。現在はWEB媒体を中心に栄養や健康に関する執筆を行う傍ら、セミナー講師、料理教室の主宰、栄養指導も務めている。

食品業界で働く人たちに向けて、展示会の取材や企業へのインタビュー記事を通して、食品開発・製造に関わる話題のトピックを発信しています。プラントベースフードに興味津々の国際薬膳師、栄養指導やセミナー講師も務める管理栄養士、デザイナーと二足のわらじの元雑誌編集者など、30〜40代の食に関心の高いメンバーを中心に運営中