
培養肉のメリットを知る|環境負荷の少ない「クリーンミート」と呼ばれる理由
タンパク質危機や環境問題などを背景に、従来の肉の代わりとして注目を集めている「培養肉」。大豆ミートなどの植物肉は「肉によく似た食品」であるのに対して、培養肉は「肉そのもの」であり、世界中で開発が進んでいます。では、培養肉には具体的にどのようなメリットが期待でき、別名「クリーンミート」と呼ばれるのはどんな理由からなのでしょうか。この記事では、培養肉の概要とともに、培養肉のメリットやクリーンミートと呼ばれる理由、培養肉の世界の動向について解説します。
タンパク質危機についてはこちら:知らないとまずい?!タンパク質危機。20XX年までに肉や魚が足りなくなる?
培養肉とは?作り方と味、代替肉との違い
培養肉は従来の肉の代わりになる食材であり、牛や豚などの動物から取り出した細胞を培養して作る肉のことです。ここでは、培養肉の作り方と味、代替肉との違いについて解説します。
培養肉の作り方と味|培養液を使って作る人工肉
培養肉の作り方はいくつかありますが、現在成功率が高いとされているのが、牛の幹細胞を取り出し培養する方法です。生きている牛から幹細胞組織を採取し、培養液に浸して培養します。すると、ひとつの細胞から新しい筋細胞が生まれ、互いに集まって筋肉の組織のもととなる小さな筋管が形成されます。こうした作業を繰り返して、培養肉が完成します。培養肉の技術は、近年進化中の再生医療における細胞培養の技術と深く関わっています。
気になる味についてですが、2022年春のNHKの特集(※)として「培養ステーキ肉」の研究の様子とともに、試食場面を取材した番組が放送されました。そこでは、培養肉の味について「海産物のようなあっさりとしたうまみ成分が感じられた」「人工的なものを食べているような感じはなかった」というコメントがありました。
※NHK特集…『ついに食べた!』~未来の肉「培養肉」の今~
代替肉との違い|植物性ではなく動物性のタンパク質
代替肉は、文字通り「肉の代わりの食品」のことで、大豆やえんどう豆など植物性の原料から作られた食べ物を指しています。食品例としては、大豆ミートやピープロテイン(えんどう豆プロテイン)を主原料とするエンドウミートがあります。代替肉は別名「フェイクミート」と呼ばれています。肉に似せて作った食材ではあるものの、植物性タンパク質で作られた「肉もどき」です。それに対して、培養肉は、食用の肉を培養して作ったものであり、動物性タンパク質を含んでいます。
代替肉についてはこちら:代替肉とはどんな肉?大豆やきのこなど、原材料別に特徴を解説
培養肉のメリット|「クリーンミート」と呼ばれる理由
培養肉にはどんなメリットがあるのでしょうか。また、培養肉はなぜ別名「クリーンミート」と呼ばれているのでしょうか。
環境への負荷が少ない
従来の家畜の生産においては、大量の穀物や水が必要です。例えば、1キロの牛肉を生産するために2万リットルを超える水が必要といわれています。また、家畜を生産するためには広大な土地が必要であり、森林伐採も問題になっています。このほか、家畜の飼育や輸送にかかる温室効果ガスも深刻な課題です。培養肉は室内の培養液で作られるため、大量の穀物や水、広大な土地が不要です。
衛生管理がしやすく家畜の感染症を予防できる
家畜を飼育する際に、成長を促進する目的で抗生物質を与えることがあります。しかし、過度の抗生物質の投与により薬剤耐性菌が発生したり、場合によっては人間に感染したりするケースもあります。培養肉は厳しい衛生管理のもとで製造されるため、環境が汚染される心配が少なく、感染症のリスクを減らすことができます。
食糧危機やタンパク質危機を解決できる
世界の人口は増加し続けていて、2050年には97億人を超えるといわれています。現状のままだと、食べ物やタンパク質が不足すると予測されています。培養肉の生産が進めば、タンパク質が安定して供給できるとともに、これまで家畜に与えていた穀物を人間に供給できるようになります。すなわち、食糧危機やタンパク質危機の問題を回避することができます。
「クリーンミート」と呼ばれる理由
クリーンミートは、直訳すると「きれいな肉」「清潔な肉」という意味です。培養肉がクリーンミートと呼ばれるのは、「環境への負荷が少ない」「感染症を予防できる」などのメリットに由来します。
クリーンミートという名称は、2018年に非営利団体グッド・フード・インスティテュート(GFI)が提唱したものです。その1年後の2019年には培養肉(cultured meat)という呼び方に変更しています。2020年には書籍「クリーンミート 培養肉が世界を変える(著者:ポール・シャピロ)」が出版され、クリーンミートという言葉は少しずつ広がっています。
いつから普及?培養肉の世界の動向
培養肉にはさまざまなメリットがあり、世界規模で研究が進んでいます。ここでは、培養肉についてのアメリカ・オランダ・日本の動向を紹介します。
アメリカのFDAが培養肉に食用許可
2022年11月16日、米食品医薬品局(FDA)は動物の細胞から培養した肉製品を初めて食用として許可したと発表しました。FDAはアメリカの培養肉企業「アップサイド・フーズ」からの提出資料を検証し、「安全性に関する同社の結論に現時点でさらなる疑問はない」と回答。これにより、農務省の検査を経て、自社で製造した培養鶏肉を市場で販売できるようになりました。
オランダ企業モサミートがコストダウンに成功
2021年春、オランダの培養肉企業「モサミート」は、培養脂肪用培地のコストダウンに成功したと発表。培地の成分の最適化や、費用対効果のよいサプライヤーの選出により、コストを65分の1まで大幅に削減しました。モサミートは、世界で初めて培養肉ハンバーガーを開発したことで知られる培養肉の先駆的企業です。培養肉のデメリットとして高コストが挙げられますが、今回のコストダウンにより培養肉の商用化に向けて一歩前進したといえそうです。
日本では日本ハムや日清食品での開発が進む
日本の食品企業においても、培養肉の開発が進んでいます。日本ハム株式会社では、2022年10月に「培養肉の主成分を一般に流通する食品由来のものに置き換えて培養することに成功した」と発表しました。これにより、これまで使用していた動物由来のもの(血清)に比べて、安価かつ安定的な調達が可能になります。日清食品ホールディングス株式会社は、2017年度から東京大学と共同して「培養ステーキ肉」の実用化に向けた研究を進めています。2022年春には日本で初めて食べられる培養肉に成功し、大きな注目を集めました。
まとめ
培養肉は動物の細胞を培養して作られた食材で、動物性のタンパク質を含む「肉そのもの」です。別名「クリーンミート」と呼ばれるように、環境負荷が少なく食糧危機やタンパク質危機を解決できる食材として期待が集まっています。世界中で培養肉の開発が進んでいて、食品業界において最も注目を浴びている食材のひとつといえるでしょう。培養肉が身近な食材になる日もそう遠くないかもしれません。