
昆虫食はなぜ注目される?話題になる背景と食品としてのメリットを解説
コオロギなどの昆虫を原料にした食品「昆虫食」。日本にも、貴重なタンパク源として昆虫を食べる地域の文化が残っていますが、多くの人にとってはなじみの薄いものでしょう。しかし今、環境負荷の少ないサステナブルな食料として、世界が昆虫食に注目しています。
一体なぜ、これほどまで昆虫食が話題になるのでしょうか。この記事では、昆虫食が期待される背景を解説した上で、食品としてのメリットや食べられる昆虫の種類について解説します。「本当に安全性に問題はないの?」「昆虫を食べるリスクは」といった疑問や不安の声にもお答えします。
昆虫食とは|食べられる虫って?
昆虫食と一口にいっても、さまざまな種類があります。また、すべての昆虫が食べられるわけではなく、食べられない昆虫も存在します。ここでは食べられる昆虫と食べられない昆虫について解説します。
1900種類の食べられる昆虫
世界で食べられている昆虫は1900種類にも及ぶとされ、アジアやアフリカ、中南米を中心に昆虫を食べる食文化が見られます。昆虫学者である三橋淳氏の書いた『虫を食べる人びと』(平凡社ライブラリー)によれば、世界ではハチやイナゴに加えて、カブトムシ、カミキリムシなども食べられているそうです。
美味しく食べられる昆虫
昆虫の味や香り、食感は多種多様です。思いきって食べてみると、おいしく感じるものもたくさんあります。たとえば、バッタはエビやカニに似た食感、タガメは洋ナシや青リンゴのようなフルーティな香りといわれています。特に味に定評のあるセミの場合は、幼虫だとナッツのようなクリーミーな風味で、成虫になるとエビのような風味が楽しめます。
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食べられない昆虫
昆虫食が一種のブームになりつつありますが、すべての昆虫が食べられるわけではなく、中には「食べてはいけない昆虫」が存在します。代表的なものとして、イラガやゲンゴロウなどの毒を持っている虫や、毒を持った植物を食べる虫が挙げられます。
また、水田や畑の近くで採った虫も食べないほうが無難です。なぜなら、水田や畑では農薬をまくことがあり、昆虫の体内に農薬が残留している可能性があるからです。そのほか、鮮度が低い虫や苦味のある虫も食べないほうがよいでしょう。
昆虫食が注目を集める背景
無印良品で話題となった「コオロギせんべい」をはじめ、日本では昆虫食に着目したベンチャー企業が、昆虫食ビジネスを盛り上げています。こうした流れに至るまでには、どのような背景があったのでしょうか。
増える世界人口、ひっ迫する食料とタンパク源
日本は少子化に直面していますが、世界全体では人口は増加し続けています。このまま行けば、2050年に世界人口は100億人に達すると言われています。近い将来、食料危機が起こると想定されていて、特に牛や豚、鶏などの畜産によるタンパク質が不足する恐れがあると言われています。
「タンパク質危機(タンパク質クライシス)」を避けるために、大豆ミートをはじめとしたプラントベースフードの開発が進められてきました。しかし、植物由来の食べ物からは、植物性のタンパク質しか得られません。必須アミノ酸のバランスや吸収率において、植物性と動物性のタンパク質では大きな違いがあり、課題になっていました。
こうした状況を受けて、注目されたのが「昆虫食」です。昆虫を食べることによって、肉や魚と同様に、必須アミノ酸である動物性タンパク質を得ることができます。
転機となった国連食糧農業機関(FAO)報告
2013年、国際連合食糧農業機関(FAO)が、ある報告書を発表しました。それは、世界の食糧危機への対策として昆虫食を推奨するというものです。この報告書を契機とし、世界各地で昆虫食の研究・開発が加速しました。
昆虫を食べる習慣のなかった欧州でも、2018年、欧州連合(EU)が昆虫を新規の食品として域内で販売することを認めました。また、2023年1月までに4つの昆虫食を新規食品として承認するなど、昆虫食の普及に向けた動きが進んでいます。
昆虫食を選ぶメリット
昆虫食を選ぶメリットとして、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、昆虫食のメリットについて解説します。
タンパク質が豊富で栄養価が高い
一般的に、「昆虫食はタンパク質が豊富に含まれている」「栄養価が高い」といわれています。では具体的に、どの程度のタンパク質が含まれていて、牛や豚と比較してどのようなものなのでしょうか。
牛や豚に負けない栄養価の高さ
たとえば、ガやハチの幼虫の場合、体重の50%がタンパク質といわれています。牛や豚が1〜3%なので、非常に高い含有率です。また、昆虫には、良質なタンパク質だけでなく、カルシウム、銅、鉄、亜鉛などのミネラルや食物繊維も豊富に含まれています。脂肪分が少なく、ヘルシーな食材です。
可食部分が多い
昆虫の特徴として「食べられる部分=可食部分」が多いことが挙げられます。
丸ごと食べられて、食品ロス削減にも貢献
昆虫は骨も実も丸ごと食べることができます。牛や豚の場合、可食部が全体の半分ほどであるのに対して、昆虫の可食部は100%とされています。昆虫は食べ残しが出ないため、昆虫食を推進することによって食品ロス(フードロス)削減にもつながります。
生産・加工しやすい
牛や豚などを飼育する場合と比べて、昆虫は短期間で育てやすいという特徴があります。また「コオロギパウダー」に代表されるように、乾燥させて粉末状にするなど加工しやすいのも大きなメリットです。
昆虫食の普及を進めるためには、高品質な昆虫が大量に供給されることとハイレベルな加工技術が必要です。世界中でさらなる生産・加工技術の開発が進められています。
環境負荷が極めて低い
昆虫食の飼育は、畜産などと比べて環境負荷が非常に低いことで知られています。
狭いスペースで飼育・加工ができる
昆虫は牛や豚、鶏などの家畜よりも狭い場所で飼育できます。コオロギ1キロを生産するのに必要な農地は、鶏肉や豚肉の約3分の1、牛肉であれば約13分の1しか必要としません。
また、出荷用にパウダーなどに加工する場合でも、小規模な施設で行えます。飼育・加工に場所を取らないということは、それだけ効率的に生産できるということです。
飼育に必要な資源が少ない
昆虫の生産は、家畜に比べて少量の水や飼料で可能です。牛肉を1キロ生産するためにはおよそ8キロのえさを必要とするのに対し、昆虫1キロの生産には約2キロのえさを使うだけで済みます。生産に必要な水についても同様で、コオロギの生産に必要な水は、牛肉の場合の約2500分の1で済んでしまいます。
温室効果ガスの排出量が少ない
牛1頭がげっぷなどで出すメタンガスは1日160リットル以上で、地球温暖化を促進しているといわれています。しかし、昆虫の飼育に伴う温室効果ガスの排出量はその10分の1以下。つまり、昆虫食は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減にも効果があるということです。
昆虫食のデメリット
栄養価が高く、環境にも良い昆虫食。それは理解できるものの、なじみの薄い昆虫食を受け入れられないという方もいらっしゃるでしょう。ここでは、昆虫食のデメリットについて考えてみましょう。
安全面でのリスクは?
専門家の助言なしに、自然採集した虫を食べるのは、危険を伴う行為です。なぜなら、すべての昆虫が食べられるわけではなく、野生の昆虫には毒を持つものや、寄生虫や病原菌を媒介するものもいるからです。一方で、管理された環境下で生産されたものは、昆虫とはいえ、他の食材と同様に安全です。
安心を担保する「コオロギ生産ガイドライン」
消費者がより安心できる環境を整えようと、2022年8月、民間団体が「コオロギ生産ガイドライン」をまとめました。研究機関や企業などでつくる「昆虫ビジネス研究開発プラットフォーム(iBPF)」が、コオロギの生産過程の衛生管理を中心に行動指針を決めました。公的なルール整備がない中で、民間主導で一定のルールを示すことで信頼性を高め、昆虫食のさらなる普及につながることが期待されます。
こちらの記事もぜひご参考にしてください。
アレルギーリスクについて
昆虫食は、食物アレルギーを持つ人には注意が必要です。なぜなら、昆虫には、エビやカニなど同様の甲殻類アレルギーの原因となる「トロポミオシン」という成分が含まれているからです。
昆虫に限らずすべての食材に共通することですが、これまで口にしたことのない食材を食べる時には少量から試すようにしましょう。これまでアレルギーの自覚症状がなかった人でも、アレルギーが急に出る場合もあるので、慎重を期すようにしてください。
見た目への抵抗感
昆虫食に対して、心理的なハードルを抱える人も少なくありません。初めて口にするものに対して拒絶反応が出るのは、動物的な本能として当たり前のことで、これは昆虫食にとって最大の課題ともいえそうです。
日本でも昆虫食品は盛んに開発されていて、さまざまな商品ラインナップがあります。まずは、昆虫の姿を連想しづらいパウダー入りの焼き菓子などから試してみるのがいいかもしれません。
市販のものは値段が高い
一般的に、昆虫を使った商品は価格が高い傾向があります。その大きな理由として、原料となる昆虫そのものの価格が高いことが挙げられます。また、販路が限られているため製造や流通にコストがかかることも、値段が高くなる原因になっています。
国内外で食べられている昆虫
国内外では、具体的にどのような昆虫が食べられているのでしょうか。ここでは世界と日本にわけて、食用とされている昆虫を紹介します。
世界の昆虫食
先に紹介したとおり、アジアやアフリカ、中南米の国々には昆虫を食べる食文化があります。ここでは、代表的な事例としてタイとケニアの昆虫食を紹介します。
タイ
昆虫食が住民生活に浸透しているタイでは、スーパーマーケットの食材コーナーに昆虫のサナギや幼虫が並んでいたり、昆虫の佃煮を売る屋台を目にしたりすることも珍しくありません。特に人気があるのはコオロギで、盛んに養殖されています。
最近では、コオロギのスナック菓子やコオロギパウダー、コオロギオイルなど、コオロギを原材料にしたさまざまな加工食品が登場しています。特にコオロギパウダーは輸出用としての需要が高く、国もその動きを後押ししています。
ケニア
アフリカ東部のケニアで最もよく食べられている虫は、シロアリです。日本でシロアリと言えば、住宅の床下で暮らすアリ(職蟻)を意味することが多いですが、現地で食べられているのは別の種類のアリ(羽蟻)です。このシロアリを使った「クンビクンビ(kumbikumbi)」という伝統料理があり、栄養失調を改善する効果があると言われています。
実際、シロアリには、良質な動物性たんぱく質や脂質のほか、カルシウム、鉄分、アミノ酸などが豊富に含まれています。ケニアのシロアリはインターネット通販などでも販売されています。
日本の昆虫食
日本においても、一部の地域では古くから昆虫を食べる習慣がありました。ここでは、長野の昆虫食について紹介します。
長野県に根付く昆虫食文化
日本で昆虫食文化が根付く地域といえば、長野県です。信州でよく食べられている昆虫としては、ハチノコやイナゴ、カイコ、ザザムシがあります。これら4種類を総称して「信州四大珍味」と呼ばれているそうです。ハチノコはスズメバチの幼虫やさなぎ、イナゴは稲作の害虫とされるバッタのことです。
長野県はかつて養蚕が盛んで、カイコは生糸の生産のために飼育されていた虫です。ザザムシは水生昆虫で、ヒゲナガカワトビケラなどの幼虫のことを指し、主に天竜川で採集できます。長野県の伊那谷地域で食べられていますが、世界的には食べる習慣がほとんどありません。
イナゴやカイコは、稲作や養蚕を営む過程で副産物として発生するもので、昆虫食は、自然と共生する地域の暮らしに深く結びついていたのでしょう。
まとめ
今回の記事では、昆虫食が注目される背景とメリット・デメリットについて解説しました。環境負荷が低くて栄養価も高いという特徴を踏まえると、昆虫食が一つの選択肢として検討されている背景はご理解いただけると思います。その一方で、見た目に対する抵抗感やアレルギーのリスクなども押さえておかなければならないポイントです。
そもそも、食文化は時間をかけて定着していくものです。ネット上では賛成派、反対派との論争がしばしば起きる昆虫食ですが、利点と欠点を冷静に知っておくことがまずは大切なことだと思います。