
食品残渣がエネルギーに!バイオマス発電のメリットと課題、取り組み事例を紹介
食品業界では、製造過程で発生する食品廃棄物や副産物を有効活用し、再生可能エネルギーとして利用する「バイオマス発電」が注目されています。食品廃棄物は捨ててしまえばただのコストですが、発電に利用することで新たな価値を生み出すことができます。
そこで本記事では、バイオマス発電の基本から、食品工場におけるメリットと課題、そして最新の企業・自治体の取り組み事例を紹介します。

バイオマス発電とは
ここでは、バイオマス発電が広がりつつある背景・歴史と共に、バイオマス発電の基本と種類や方法について解説します。
バイオマス発電が広がりつつある背景・歴史
バイオマス発電は、動植物由来の有機性資源を燃料として電力を生み出す再生可能エネルギーの一種です。地球温暖化対策や廃棄物の有効活用の観点から、食品業界においても導入が進んでいます。
バイオマス発電とは
バイオマスとは、生物資源を意味する「bio」と、質量を意味する「mass」が組み合わされてできた言葉です。動植物が原料である有機性の生物資源の中から、化石燃料を除外したものをバイオマスと呼んでいます。
バイオマス発電とは、バイオマスを燃料として、電気や熱を生み出す発電方式です。バイオマスには、木くずや間伐材、家畜ふん尿、食品廃棄物などが含まれます。
バイオマス発電の種類・方法
バイオマス発電には主に3つの方法があります。
【直接燃焼方式】
木材などのバイオマスを直接燃焼させる方法です。その熱水から出る蒸気でタービンを回して発電します。シンプルな設備であり、維持や管理がしやすいのが特徴です。
【熱分解ガス化方式】
バイオマスを高温で蒸し焼きにして、その際に発生するガスを燃料にしてタービンを回す方法です。燃焼方式との違いは、直接燃焼方式に比べて小規模な施設でも発電効率が安定しやすいという点です。
【生物化学的ガス化方式】
生ゴミや下水汚泥、家畜の糞尿などを発酵する歳に出るバイオマスを燃料にして発電する方法です。バイオマスを燃焼ではなくて発酵させるのが大きな特徴で、生ゴミなどの水分の多い燃料も利用できます。
食品工場におけるバイオマス発電のメリットと課題
食品工場でバイオマス発電を導入するメリットや課題はどのようなところにあるのでしょうか。ここでは、メリットと課題のそれぞれについて解説します。
食品工場におけるバイオマス発電のメリット
バイオマス発電を導入するメリットは大きく3つあります。
【安定して発電できる】
バイオマス発電は、燃料が供給できる限り、安定して発電できます。食品工場の場合、バイオマス発電の燃料となるのは、主に食品廃棄物や食品残渣なので、これらの燃料が不足することは少ないといえるでしょう。
天候によって発電量が大きく変わる太陽光発電や風力発電などの他の再生可能エネルギーと比較すると、安定供給できるのは大きなメリットといえます。
【廃棄物の有効活用によりエネルギーコストを削減できる】
製造過程で発生する食品廃棄物や食品残渣を燃料として利用するため、廃棄物の有効活用につながります。
一般的に廃棄物の処理にもコストがかかるため、これらを燃料として発電ができれば、資源の有効活用にもつながります。また、バイオマス発電が進めば、電力の購入費用などのエネルギーコストの削減にもつながります。
【カーボンニュートラルな発電方法である】
バイオマス発電は、地球にやさしい発電方法としても注目されています。廃棄物を燃焼することによってCO₂が放出されますが、このCO₂は大気中から光合成をする際に吸収したCO₂です。そのため、新たなCO₂を放出しない「カーボンニュートラル」な発電方法であり、環境負荷の低減にもつながります。
課題と解決策
メリットだけでなく、バイオマス発電を導入に際しては課題もあります。ここでは課題と解決策について説明します。
【コストがかかる】
バイオマス発電は、燃料の収集・運搬や加工、管理などの段階の工程ごとに大きなコストがかかります。この点で、設備があればコストがあまりかからない太陽光発電や風力発電とは大きく異なります。
政府の補助金などの利用を検討すると共に、廃棄物の分別や収集・運搬する仕組みの整備が求められます。
【発電効率は収支や環境負荷とあわせて考慮】
バイオマス発電は発電効率が低い傾向があります。発電する方法によって異なるものの、発電効率は約20~40%とされています(※1)。
他の発電方法の場合、太陽光発電や地熱発電は約20%、風力発電や火力発電は約40%、水力発電は80%という数字が出ています(※2)。一見すると、バイオマス発電の発電効率はあまり高くありませんが、廃棄コストと相殺することで収支がプラスになることも考えられます。
※1 出典:電力中央研究所/電気新聞ゼミナール(304)「カーボンニュートラルとしてのバイオマス発電にはどのような期待と課題があるか?」
※2 出典:エネがえる「発電効率とは?種類別ランキング・太陽光発電の損失を解説」
企業・自治体におけるバイオマス発電の取り組み事例
実際に、どのような形でバイオマス発電が導入されているのでしょうか。ここでは、企業や自治体におけるバイオマス発電の取り組み事例を5つ紹介します。
サントリー
写真提供:サントリー食品インターナショナル株式会社
2021年から稼働スタートした「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場(長野県)」では、バイオマス燃料を用いたボイラーを導入し、太陽光発電や再生可能エネルギー由来の電力の調達などにより、サントリーとして日本国内初の「CO₂排出実質ゼロ工場」を実現しました。
※参考:サントリーグループのサステナビリティ/取り組み「サントリーとして日本国内初のCO₂実質ゼロ工場」
スシロー
スシローの一部店舗(福岡県内7店舗)において排出される食品残渣について、J&T環境株式会社の子会社である福岡バイオフードリサイクル株式会社がメタン発酵、リサイクル発電を行い、発電された電力をアーバンエナジーが買い取り、スシローの一部店舗に供給。廃棄物の量に応じて電力料金を割引還元する仕組みで、実質再生エネルギー100%の電力を供給しています。
※参考:J&T 環境株式会社/ニュース「回転すし「スシロー」の一部店舗において 「食品リサイクル発電+CO2実質排出量ゼロ」の電力プランを導入」
みすずコーポレーション
排水処理からの副生成物を利用してバイオマス発電を行っています。設備は25kw/hの発電機が11台、一般家庭で約330軒分の発電能力を保有し、発電した電気は地域の電力会社に供給しています。
※参考:株式会社みすずコーポレーション「バイオマス発電」
愛知県豊橋市「バイオマス資源利活用施設整備・運営事業」
豊橋市は、下水汚泥、し尿、浄化槽汚泥、生ごみを中島処理場に集約して、未利用バイオマス資源をエネルギー利用するためのバイオガス化施設を整備します。メタン発酵によりバイオガスを取り出し、ガス発電のエネルギーとして活用します。事業実施結果によれば、メタンガスによる発電の販売量は年間680万kWhで、一般家庭に換算すると約1,890世帯分にあたります。
※参考:豊橋市上下水道「豊橋市バイオマス資源利活用施設整備・運営事業」
東京都羽村市「羽村バイオガス発電所」
店舗で排出された食品残渣をバイオガス発電事業所のメタン発酵処理を通じて再生可能エネルギーを発電し、発電時の副産物として発生した固形物を肥料として契約農場に散布し野菜を栽培する取り組みを進めています。その肥料を使って育てられた農畜産物が、スーパーの店舗に運ばれて資源循環をする循環型モデルが、スーパーとして初の「再生利用事業計画(食品リサイクル法)」の認定を取得しました。
※参考:西東京リサイクルセンター「リサイクルレポート」
まとめ
バイオマス発電は、食品工場における廃棄物の有効活用と再生可能エネルギーの導入を同時に実現する有効な手段です。導入にはコストや発電効率の改善などの課題がありますが、カーボンニュートラルな発電方法であり資源の有効利用につながるなどのメリットもあります。大手企業や自治体などでの導入も進んでいて、今後、食品業界全体でのさらなる普及が期待されます。


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