
特集|続々商品化!脳機能を高めるヌートロピックとは?具体的な成分や食品例をご紹介
仕事や勉強、家事などの日常生活において、作業能率をいかに高めるか、ということに注力している人も多いのではないでしょうか? そうした中、注目を集めているのが脳機能を高める効果が期待される「ヌートロピック」です。
この記事では、脳の機能を高めることで日常の作業能率の改善に役立つ成分や、それらの種類、海外・国内の市場動向のほか、関連商品をご紹介します。本記事を参考に、開発テーマや条件にあった原料をぜひ見つけてください。
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ヌートロピックとは
「頭がよくなる(賢くなる)」「集中力が高まる」などのように、脳の機能向上効果を謳った健康食品のことを「ヌートロピック(Nootropic:向知性薬という意味)」や「ヌートロピクス(複数形)」と呼びます。海外では、健康食品だけでなく医薬品も含め、脳機能に効果が期待できる成分を含んだものをまとめて「ヌートロピック」と表現することもあります。
一方、国内では「スマートドラッグ」や、その略称である「スマドラ」と呼ばれることが多くなっています。また、「向知性薬」「脳機能調整薬」「認知機能増強物質」と紹介されることもあり、近年SNSなどを中心にその効果が注目されています。
なお、脳に良い影響を与える成分が含まれた「ブレインフード」や「ブレインサプリメント」などの名称でメディアに取り上げられたり、市場に出回ることもありますが、これらもヌートロピックに当たります。
※参考:厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)令和元年度 分担研究報告書「脳機能調整薬の使用実態等に関する SNS 調査」
※参考:ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト「頭がよくなる魔法の薬『ヌートロピック』って何?」
ヌートロピックの具体的な効果
ヌートロピックには、成分ごとに異なる効果が期待できるとされています。主な効果に、次のようなものがあります。
- モチベーションの向上
- 疲労感や倦怠感の軽減
- 注意力、集中力の向上
- 記憶力向上
- 認知機能の維持
- 気分や幸福感の改善
- 不安やストレスの軽減
- 睡眠の質の向上
これらのことからわかるように、ヌートロピックは健常人の集中力・記憶力の強化に留まらず、高齢者の認知機能の維持、ストレスや睡眠障害に悩む人など、幅広いニーズに対応することが期待されています。
すでに欧米諸国では、集中力が必要な職種(研究者、ビジネスマン、アスリートなど)における作業効率や能力向上、試験前の学生の学習能力向上など、脳のパフォーマンスを高める目的での需要が高まっています。
※参考:IWASE COSFA「サプリメント市場が今注目するヌートロピックとは?」
ヌートロピックの種類
アメリカのヌートロピックを紹介するサイト内では、130以上もの成分が紹介されています。その中には、ADHD(周囲欠如・多動性障害)治療薬などの医薬品成分、サプリメント、ビタミンB類なども含まれています。
国内においては、指定成分(※)や抗うつ薬のほか、主に次のような成分が紹介されています。
- DHA、EPA
- GABA(γ-アミノ酪酸)
- イチョウ葉、イチョウ葉エキス
- カフェイン
- コリン
- 大豆レシチン
- チロシン
- ブルーベリーエキス など
※指定成分とは、食品衛生上の危害の発生を防止する見地から特別の注意を必要とする成分又は物を指します。
※参考:東京都保健医療局「指定成分等含有食品」
海外・国内で需要増すヌートロピックの市場動向
世界的に需要が増大しているヌートロピック市場(脳の健康補助食品市場)。さまざまな業界の市場調査を行う「Fortune Business Insights」によると、世界の市場規模は、2024年で62億9,000万米ドルに達していて、2032年までに115億5,000米ドルまで成長すると予測されています。
特に、欧米での伸びが顕著で、精神的な鋭敏さと集中力の向上を求めるアスリートに特化した製品を提供する企業が増えており、急速に消費が拡大しているとも言われています。
海外|アメリカ、西ヨーロッパで消費拡大
アメリカの市場規模は、2014年以降から前年比10%を超える急激な成長を遂げています(※1)。その背景として、アメリカの成人人口うち5,930万人(2022年時点)に相当する人が精神疾患を抱えていると報告されている(※2)ことや、人口の高齢化、認知健康に対する意識の高まり、技術の進歩などの要因が挙げられています(※3)。
また、ヨーロッパでは、多くの人が脳の健康に高い関心を抱いていることが明らかになっています。消費者市場調査を専門とするグローバル企業MMR Research社によれば、フランス、ドイツ、オランダの消費者1,657人を対象とした「健康問題で重要と思う箇所」の調査で、いずれの国においても、心臓、脳、免疫の健康がトップ3に入るという結果になりました。中でも、オランダの消費者はブレインヘルスをトップに挙げていることがわかりました。
同時に、オランダで48%、ドイツで59%、フランスでは67%の人が、QOL(生活の質)を高める商品を進んで選んでいることから、経済的圧力があったとしても認知機能を含む脳の健康に対してメリットのある商品に金額を費やすことをいとわない、という考え方の人が多くいることがわかっています(※4)。
※1参考:ウェルネス総研レポートonline「【マーケティングレポート①前編】健康な人の認知機能やパフォーマンスを向上する「ヌートロピック」の可能性」
※2参考:フォーチュン ビジネス インサイト「米国行動ヘルス市場規模、シェアおよび業界分析、タイプ別(行動およびメンタルヘルス、薬物乱用、摂食障害、トラウマ/PTSDなど)、支払者別(公的健康保険および民間健康保険/自己負担)、および国別予測、2024~2032 年」
※3参考:Global Infomation「ブレインヘルスサプリメント市場の2030年までの予測:製品別、サプリメント形態別、年齢層別、用途別、流通チャネル別、地域別の世界分析」
※4参考:ウェルネス総研レポートonline「【マーケット】欧州の消費者は脳の健康を最優先」
日本|高齢化を背景に消費拡大の見込み
海外の動向を受け、日本国内においても各企業でヌートロピックに関連した製品が近年増加傾向にあります。とりわけ、日本では認知症対策などの予防的な目的での導入が多くなっています。
実際に、「脳機能をサポート」「記憶力を維持する」などの表記とともに、商品化された機能性食品やサプリメントを店頭やインターネットで見かけることができます。
日本は諸外国に比べて高齢化のスピードが速く、世界でトップクラスの長寿国となっています。年々平均寿命が延び、100歳以上の人口の割合も増加している日本において、今や「人生100年時代」を迎える事態に直面しているのです。
ところが、長寿であっても健康を維持できないことが、医療費や介護施設の圧迫として社会的な問題として挙げられています。いかに介護や病気の心配なく過ごせるか、健康寿命の延伸が社会命題となっているからこそ、国内でのニーズもますます高まっていくことが考えられるでしょう。
【管理栄養士監修】脳機能をサポートする成分と食品例
ここからは、実際に商品化されている具体的な成分と食品をご紹介します。
1.パラチノース
パラチノースとは、蜂蜜に微量に含まれている天然の糖質です。イソマルツロースという成分ですが、欧米ではパラチノースの呼称が定着しています。
パラチノースの甘さは砂糖の主成分であるショ糖(スクロース)の半分ほどですが、見た目や味わいは似ています。現在は、甜菜糖を発酵処理したものから作られることが多くなっています。
体内では分解に時間がかかることから、ショ糖の5分の1ほどの吸収速度と言われています。そのため、血糖値の急激な変動を抑えたり、体脂肪の蓄積を防いだり、脂肪の燃焼促進にも役立つことがわかっています。また、脳への血糖供給持続によって注意力の向上や眠気低減作用も期待できます。
食品例:ゼリー飲料、菓子(クッキー、羊羹など)、サプリメント
※参考:DM三井製糖株式会社「持続するエネルギー源『パラチノース®』」
※参考:医療・介護関係者の方へ向けた専門情報サイト meiji Nutrition Info「パラチノース」
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2.DHA、EPA
DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)は、魚の脂に多く含まれる成分です。特に、脂のりのよい魚種や青魚の含有量が高くなっています。
もともと私たちの脳や神経などに存在する成分でもありますが、体内で作られる量が少ないため、食品などから取り入れる必要があるのです。
不飽和脂肪酸に分類され、健康効果の高いことで知られるω-3脂肪酸(n-3系脂肪酸)でもあります。体内の免疫反応の調整、生活習慣病や炎症の予防・改善、記憶力や言語能力などの認知機能と行動能力の向上などにも役立つと言われています。
食品例:ジュース、ヨーグルト、魚肉練り製品、サプリメント
※参考:不二製油株式会社「不二製油の革新」
※参考:大塚製薬「栄養の基本を知ろう!栄養教養学部」
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3.シチコリン
CDP-コリンとも呼ばれる成分で、体内にも存在している成分です。もともとは脳梗塞、脳卒中、外傷性の脳機能障害や、緑内障などを治療するための医薬品として使われていましたが、脳や神経細胞にある細胞膜を維持する働きも期待できることがわかっています。
日本では医薬品としての使用しか認められていませんが、欧米では記憶力・注意力の向上などを目的として健康食品などの原料に使われています。
食品例:エナジードリンク、スポーツドリンク、プロテインバー、サプリメント
※参考:キリンの研究開発「脳機能素材『シチコリン』を海外主力商材に押し上げた女性研究者の挑戦」
※参考:協和発酵バイオ株式会社「シチコリン」
4.L-テアニン
L-テアニンとは、アミノ酸の一種であり、緑茶に含まれるうま味や甘味の元となる成分です。茶葉に日光が当たることで、渋みのあるカテキンへと変化する性質があります。そのため、玉露や抹茶など、収穫の前に日光を遮って栽培される高級な茶葉ほど多く含まれる傾向があります。
リラックス感の向上や抗ストレス作用をはじめ、睡眠の質を高めて目覚めた時の疲労感や満足感の改善などにも役立つとされています。
食品例:ゼリー、ジュース、アイスクリーム、サプリメント
※参考:森下仁丹「テアニン・ゼリー」
※参考:太陽化学株式会社「テアニンのおはなし」
5.イミダゾールジペプチド
イミダゾールジペプチドとは、アミノ酸が2つ結合した物質の中で、主にアンセリンとカルノシンのことを指します。イミダペプチドやイミダゾールペプチド、と呼ばれることもあります。筋肉や脳内に多く存在しており、食品としては鶏むね肉に高濃度に含まれています。
以前から知られている抗酸化作用や抗疲労作用に加え、最近の研究では認知機能や記憶の改善作用があることも報告されています。
食品例:スープ、ゼリー、サプリメント
※参考:日本予防医薬株式会社「イミダペプチドスープ(コーン・コンソメ)」
※参考:独立行政法人 農畜産業振興機構「鶏肉に含まれるイミダゾールジペプチドとその機能性について」
※参考:日本ハム株式会社「期待集まる動物性食品由来の『イミダゾールジペプチド』炎症を抑えて脳の老化改善に可能性が」
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6.GABA
GABA(ギャバ)とは、正式名称は「γ(ガンマ)-アミノ酪酸」で、そのアルファベットの頭文字をとった略称で呼ばれています。アミノ酸の一種であり、植物性食品を中心に幅広く含まれる成分です。人間の脳にも存在し、交感神経の働きを抑え、脳の興奮を鎮める、睡眠の質を高める、高めの血圧を下げるなどの効果が知られています。
医薬品としても利用され、脳血流量や脳酸素供給量などを増加させる脳代謝促進作用を持っています。
食品例:菓子(チョコレート、キャンディーなど)、ヨーグルト、サプリメント
※参考:ヤクルト中央研究所「GABA(γ-アミノ酪酸)」
※参考:KEGG MEDICUS「医療用医薬品 : ガンマロン」
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効率重視、ストレス過多、高齢化といった社会的背景から、今後も世界的にヌートロピックの需要は高まっていくと思われます。それに伴い、次々と研究開発が進められ、今まであまり注目されていなかった食品や成分も登場していくようになるでしょう。
ご紹介した内容を参考に、ヌートロピックを使った商品開発を考えている人や商材をお探しの方に役立ててもらえれば幸いです。
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多田ゆかり
大学卒業後、一般企業に就職。出産・子育てを経て、2019年からフリーランスの管理栄養士として活動を始める。現在はWEB媒体を中心に栄養や健康に関する執筆を行う傍ら、セミナー講師、料理教室の主宰、栄養指導も務めている。
食品業界に携わる方々に向けて、日々の業務に役立つ情報を発信しています。食品業界の今と未来を示唆する連載や、経営者へのインタビュー、展示会の取材、製品・外食トレンドなど話題のトピックが満載!さらに、食品開発のスキルアップや人材育成に寄与するコンテンツも定期的にお届けしています。