
小麦に代わる穀物のカーンザとは|多年生植物だからこそのメリットを解説
世界中の人が摂取しているカロリーのうち、45%以上を穀物が占めていると言われています。収穫後の輸送や貯蔵の容易さ、保存性の良さといった、エネルギー源としての優秀さを考えるとこれに勝る選択肢はなく、私たちの暮らしに深く根付いてきました。
ところが、穀物の代表格である小麦は一年生の植物です。毎年種をまき、手をかけて収穫する必要があります。田畑を耕し植え替える作業がなくなったらどれだけの資源を節約できるでしょう。
この記事では、地球環境を救うかもしれない多年生植物「カーンザ」の特徴やメリット・デメリット、そして食品への具体的な活用例を紹介します。
カーンザとは
まずはカーンザの主な特徴を見ていきましょう。
多年生植物で小麦の代替作物として注目されている
カーンザは同じ場所で何年も生育する多年生植物です。発芽してから1年以内に枯れる小麦、米、トウモロコシなどの一年生植物とは違い、収穫後もそのまま残り、次の年も実をつけます。カーンザは根に地中の炭素を貯留することで環境保全に貢献することもあり、小麦の代替作物として注目を集めています。
20年ほど前に開発されたが起源は古代
カーンザは20年ほど前に誕生した多年生植物です。育った状態は小麦に似ていますが、種の大きさは小麦の5分の1程度と小さく、これまで飼料として使われてきました。
人間は約1万年前から一年生植物を栽培してきましたが、それ以前は多年生植物を主な食糧としてきました。カーンザは、多年生植物を修復型農法で栽培してきた古代が起源ともいえるかもしれません。
小麦と比較するとやや香ばしい風味
カーンザは、小麦と比較するとやや香ばしくスパイシーな風味が特徴です。
カーンザを小麦に代用するメリット
ここでは、カーンザを栽培するメリットを解説します。
多年生のため二酸化炭素を地中に留める働きが強い
カーンザは多年生植物のため、畑を耕したり植え替えたりする必要がありません。その分のエネルギーや二酸化炭素の排出量を削減できます。加えて特徴的なのが、カーンザが3メートルを超える長い根「ロング・ルート」を持つことです。この長い根に空気中の二酸化炭素を蓄えることで、土壌に炭素を貯留する役割を効果的に果たします。地中深くまで張り巡らされた根は、1年を通して土壌を守り、水や炭素、窒素を循環させます。
土地が荒れにくい
小麦、米、トウモロコシなどの一年生植物は根が比較的浅く、地表から30cm程度のものがほとんどです。1年で枯れるため土壌の浸食や地力の低下、水質汚染などの問題が発生しています。
これらの作物は、輸送や貯蔵がしやすい、比較的長持ちする、タンパク質やカロリーが高いというメリットがあり、世界の農地の80%ではこうした作物が栽培されています。これらの食物を栽培するには広い土地だけでなく、水やエネルギー、化学物質の使用が必要です。
数十年後には世界の人口が大幅に増加すると予想され、農業による環境悪化が進む懸念があります。このことから、自然の生態系により近い形での穀物の栽培が模索されている状況です。カーンザは多年生植物であり、土壌を流れる水はきれいで野生生物も多いため、一年生植物と比較すると農業による環境悪化を防ぐ効果が大きいとされています。
少ない水で育てられる
カーンザは小麦よりも少ない水で育てられるため、水資源の負担も軽減できます。
カーンザを栽培するデメリット
カーンザを栽培する上でのデメリットもあります。小麦と比較して見ていきましょう。
単位面積当たりの収穫量が小麦より少ない
カーンザの単位面積当たりの収穫量は小麦の10分の1と、小麦より量を収穫できない点がデメリットです。しかし販売価格は小麦の1.5倍と大幅に高いため、農家の収入面ではさほど問題はないと言えそうです。
現在は、カンザス州の非営利団体であるThe Land Instituteが、より大きいカーンザの種を作り、農家がより多く収穫できるよう開発を進めている状況です。
カーンザに含まれる栄養素と健康効果
カーンザは長い根を張るため、一年生植物では届かない地中の深い部分の水や栄養素を吸収し、食物繊維や植物性タンパク質、必須アミノ酸を豊富に含んでいます。
食物繊維
カーンザには食物繊維が含まれています。食物繊維は小腸で消化・吸収されず大腸まで到達し、以下のような健康効果をもたらします。
・便秘予防などの整腸効果
・血糖値上昇の抑制
・血液中のコレステロール濃度の低下
植物性タンパク質
植物性タンパク質は動物性の食品と比較してエネルギー量が抑えられます。そのため、ダイエット中でも量を摂取でき食事を楽しめるメリットがあります。
必須アミノ酸
必須アミノ酸はタンパク質を構成する成分です。カーンザは必須アミノ酸を含みます。必須アミノ酸の中には、運動時の疲労の軽減や筋力の維持・増量などの効果が期待できるものがあります。
カロテノイドやルテイン、ゼアキサンチン
これらの成分は目や心血管代謝に良く、抗酸化作用が強いという特徴があります。
カーンザは様々な食品に活用できる(事例紹介)
ここでは、すでに発売されているカーンザを活用した食品を見ていきましょう。
ビール|パタゴニア プロビジョンズ
パタゴニアは、SDGsを目指した食品群を販売する食品コレクション「パタゴニア プロビジョンズ」で環境負荷が少ない持続可能な農業などを支援しています。その中で、多年生植物のカーンザを原料としたビール「ロング・ルート・ペールエール」や「ロング・ルート・ウィット」を販売し、大きな話題となりました。
シリアル|カスカディアン・ファーム
カスカディアン・ファームもカーンザを原料としたシリアル「ハニー・トーステッド・カーンザ・シリアル」を限定発売しました。カスカディアン・ファームは、殺虫剤や肥料、人工香味料を使わないオーガニック・グラノーラなどで知られる会社です。カスカディアン・ファームは2040年までにカーンザを使ったシリアルを市場に浸透させることを目指すとしています。
まとめ
持続可能な社会が求められる今後は、カーンザをはじめとする多年生植物にますます注目が集まると考えられます。農業における品種改良も育種科学の発展により、厳しい気候や病害虫に強く収量を多くするだけでなく、一年生植物を多年生植物へと改良していく道筋が見えてきているのだそうです。実現はもう少し先になるようですが、いずれカーンザが気候変動を救う救世主となるかもしれません。
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