
バナナの皮をバイオ燃料に。廃棄物利用で脱炭素社会目指す
動物や植物などから生まれた有機性資源の「バイオマス」。具体的には森林の間伐材や食品廃棄物などから得られるバイオマスエネルギーは、カーボンニュートラルかつ再生可能であるという点から、気候変動対策への効果が期待されています。そうした中、スイスの研究者たちが、バナナの皮から再生可能なバイオマス燃料を抽出する方法を発見しました。本来なら廃棄されてしまう物を利用して再生可能エネルギーを生み出すという画期的な方法です。
光の照射でバナナの皮から水素を取り出す
2022年1月、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に拠点を置く科学者チームは、バイオマスエネルギーの画期的な抽出法を発表しました。それは、乾燥したバナナの皮の粉末から、水素やバイオ炭などの資源を抽出するというものです。乾燥バナナの皮1kgから約100リットルの水素と330gのバイオ炭が生成されます。
特に水素は、使用過程で二酸化炭素を排出せず、多様な資源から得られるという供給源の安定性から、脱炭素社会の鍵とされるエネルギーです。研究チームが発表した水素抽出法は、実にシンプルなものです。まず、炭素、水素、酸素など有機物をたくさん含むバナナの皮を、105度で24時間乾燥させ、粉末にします。これを不活性ガスで満たしたステンレス製の容器に入れて光を照射。わずか数ミリ秒という速さで分解は完了します。
ポイントは、写真撮影のフラッシュにも使われている「キセノン閃光ランプ」で照射することです。極めて短時間に明るく照らすこの白い光は、強力なエネルギーで物質の化学反応を促進します。光と熱で一瞬にして1000℃以上という高温に達することで強力なエネルギー変換が起き、これまでなかった水素抽出法が実現しました。
真のカーボンニュートラル、画期性が評価
欧州連合(EU)は、2050年までに二酸化炭素の排出量と除去量を差し引きゼロにする脱炭素化(カーボンニュートラル)の施策を強化しています。ただ現実には、バイオエネルギーの生産工程で、二酸化炭素が排出されるケースは珍しくありません。それは、高温の加熱処理をしてエネルギーを分解・抽出する場合、大量の化石燃料が必要となるからです。
生産工程に生じるこの矛盾は、バイオマスエネルギーの生産にとってのネックでした。しかし、光を照射してバナナの皮から水素を抽出する方法は、この問題をクリアーした画期的な方法です。それどころか、水素と共に得られる副産物のバイオ炭は、二酸化炭素を吸収して閉じ込める「炭素貯留効果」があります。バイオ炭は、酸化した土地を中性化するなど土壌改善効果も確認されていて、農業資材としての活用も期待されています。
原料のバイオマスはバナナの皮以外に、トウモロコシの芯、オレンジの皮、コーヒー豆、ココナッツの殻なども応用できる見込みがあると言われています。将来的には、タイヤなどの産業廃棄物を利用するなど、さらなる発展の可能性も秘めています。

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