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テクノロジーで食にイノベーションを!「フードテックビジネスプランコンテスト」初代受賞者のアイデアを一挙ご紹介【シェアシマinfo】

テクノロジーを活用した食の新産業創出を目指す「フードテック官民協議会」(事務局:農林水産省)は2023年2月4日(土)、「未来を創る!フードテックビジネスプランコンテスト」の本選大会を、都内で初開催しました。日本初のフードテックビジネスコンテストで、一次・二次審査を通過した計11組が未発表のアイデアを7分間でプレゼンしました。

食品原料のB2Bマーケットプレイスを創り出そうとする当社(ICS-net株式会社)は、当コンテストに協賛の立場で参加。最優秀賞・優秀賞を含む受賞者5名の事業アイデアを、シェアシマinfoにて特別にシェアします!

【最優秀賞】地球環境にやさしい『宙(そら)ベジ』の普及 木村俊介さん(株式会社TOWING)


株式会社TOWINGのCOOを務める木村俊介さんは、もともと宇宙開発事業を行っており、宇宙のような極限の環境下でも自給自足可能な食料生産システムを作る研究をしていました。そこで活用していた独自の微生物培養技術を用いて、食べることで脱炭素・SDGsに貢献できる野菜『宙(そら)ベジ』を開発しました。

『宙ベジ』とは

『宙ベジ』は、株式会社TOWINGの独自技術で開発された『高機能バイオ炭』と有機質肥料を使って育てた野菜です。後述の『高機能バイオ炭』の特性から、環境貢献度の高い野菜としてブランディングされています。

『高機能バイオ炭』とは

『高機能バイオ炭』は、もみがらや畜糞など地域に余っているバイオマス資源を炭に変えたものに、硝化菌などの土壌由来微生物を定着させ、有機肥料で活性化させたものです。通常、農家が3年~5年かけて作る土壌微生物菌層を独自技術によりわずか1ヶ月で構築可能です。TOWING独自のバイオ炭の前処理技術、微生物培養等に係る技術を、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した技術と融合し、実用化しました。

『宙ベジ』が解決できる課題

CO2排出のない土壌構築を実現

通常のもみがらなどを土にすりこむと、バクテリアが分解してCO2が排出されますが、『高機能バイオ炭』は分解されることなく100年間残るので、CO2が排出されません。炭を埋めるほどCO2削減が可能で、結果的にカーボンクレジットという副収入源にもつなげられます。

化学肥料から有機肥料への転換を後押し

これまで、化学肥料の原料高騰が大きな課題でしたが、有機肥料は化学肥料に比べて収量が落ちるため、有機肥料への転換は容易ではありませんでした。『高機能バイオ炭』はむしろ収量を増やす効果が認められており、『宙ベジ』は無理に価格を上げる必要がありません。これにより農家の有機転換を実現しています。

『宙ベジ』の優位性

一般のバイオ炭を使用して育てた野菜は市場に出回っていますが、株式会社TOWINGでは独自の販路を提供可能です。また、『宙ベジ』は『高機能バイオ炭』により収量が向上するという点でも優れており、CO2削減量も3倍以上となっています。

『宙ベジ』の今後の展望

『宙ベジ』ビジネスは現在は愛知県を中心に展開していますが、2023年中には関東圏内へ進出し、2024年には全国展開、2026年には海外進出も計画しています。

関連URL:https://towing.co.jp/
問い合わせ先:info@towing.co.jp

【優秀賞】 すべての人の未来に寄り添う『AI食』 小山正浩さん(株式会社ウェルナス)


株式会社ウェルナスの代表取締役である小山正浩さんは、『AI食』という「栄養2.0」の世界に向けた技術を開発しています。『AI食』は日経トレンディ2023年ヒット予測100で11位にも選出されるなど、注目されているワードです。

『AI食』とは

『AI食』は、個人の食と体のデータを解析して体データを改善・改悪している栄養素を特定し、健康目標を実現できるよう栄養調整を行った”個別栄養最適食”です。実証実験では『AI食』を食べた人の96.3%が脳機能や運動機能の向上といった効果を実証しています。

『AI食』が提供できる価値

ユーザーひとりとりの栄養素の秘密を解明

例えばダイエットの場合、体重を減らす・増やす栄養素を個別に特定できるため、それらの調整によって体重を改善することが可能です。実際に『AI食』の体重改善効果を検証した結果、ひとりひとり異なる栄養素パターンを解明し、その調整により毎日3食AI食を摂った人の82%で体重減少が見られました。

健康目標達成のために最適化した食を提案可能

『AI食』の技術ではひとりひとりの目標に沿った関与栄養素を見える化できるので、健康目標達成のために個別栄養最適化した、その人だけのための食を提案できます。

AI食アプリ『NEWTRISH』

株式会社ウェルナスでは、『AI食』を提案し、健康目標達成をサポートするアプリ『NEWTRISH』を1月に発売し、1ヶ月半で10,000ダウンロードを達成しました。。自身の食事や体重などの必要なデータを入力すると関与栄養素などが分かるサービスで、食事管理アプリ『あすけん』と提携を結び、そちらからの流入で現在も順調にユーザーを増やしています。

『AI食』の今後の展望

現在はアスリートなど健康リテラシーの高い人を対象にサービスを展開していますが、今後は一般の若年層から高齢者まで多くの人が利用できるサービスを目指します。現状ではデータ入力の手間がかかることが課題としてあるため、それらが不要なサービスも開発中です。
また、外食・中食・コンビニ食などで手軽にAI食を手に入れられるような実食提供サービスにも力を入れています。

関連URL:https://wellnas.biz
問い合わせ先:info@wellnas.biz

【学生賞】米 Time for Your Health 安孫子眞鈴さん(山形大学大学院)


山形大学大学院生の安孫子眞鈴さんは、大学で5年間米の研究をし、米粉の弾力の調整技術を獲得しました。もともとグミが好きだったこともあり、日本人に合ったグミを作れないかと考え、米を使ったグミ『米(まい)Time』の開発を始めました。

『米Time』とは

『米Time』は原料に米を使った、モチモチとした食感と強い弾力が特徴のグミです。はちみつなどの濃厚溶液に漬け込むことで浸透圧により弾力を変えられるので、食べる人の年齢や健康状態に合わせた食感の調整が可能です。

『米Time』が解決できる課題

口腔機能の改善により健康寿命の引き上げ効果

『米Time』は咀嚼を促し、唾液を増加させることでオーラルフレイルと呼ばれる口腔機能の低下を防ぐ効果があります。「人は口から老いる」といわれており、口腔機能を改善することが要介護状態に陥るのを防ぐのに重要です。
また、咀嚼を増やすと虫歯の予防につながるだけでなく、認知症や肥満の予防にも効果があります。

未利用資源の活用でフードロス削減

『米Time』には粉末化した野菜を添加できます。高齢者に不足しがちなビタミンや食物繊維も摂取できる上、野菜の根や葉などの未利用資源を活用すればフードロス削減にも貢献できます。

『米Time』の優位性

『米Time』は米から作られているため、既存のグミよりも高弾力で満足感が得られやすいのが特長です。粉末を添加できる点でも優れています。また、動物性のゼラチンを不使用とした『米Time』を開発できれば、ヴィーガンの人でも食べられます。

『米Time』の今後の展望

『米Time』は現在、通販サイトでの販売を行っています。今後は硬さの異なる3種類のグミを開発すると同時に、製造委託先・販売会社の見当を行っていきます。2024年にはテストマーケティングをスタートし、2025年からは店頭販売も予定しています。海外展開も視野に入れており、主にヴィーガン市場への参入を目指しています。
また、他社での食品開発のアドバイスやレシピ開発も計画しています。

関連URL:https://trycago.thebase.in/
問い合わせ先:marin.a@ipy.jp.net

【特別賞】全国の蔵元から厳選した日本酒缶ブランド 玄成秀さん(株式会社Agnavi)


株式会社Agnaviの代表取締役である玄成秀さんは、缶による日本酒の消費物流および生産のアップデートを目的とした事業を行っています。蔵元から日本酒の充填委託を受けており、ブランディングから加工・販売までアウトソーシングで行うことで相互利益を得ています。

日本酒缶ブランドとは

日本酒缶ブランドは、これまでビンでの販売が主流だった日本酒を180mlの缶にしたもので、現在『ICHI-GO-CAN®』『Canpai』の2つのブランドを展開しています。

日本酒缶ブランド①『ICHI-GO-CAN®』

『ICHI-GO-CAN®』は国内の全世代向けに作られたブランドで、蔵元の代表酒を多品種少量生産しています。価格は500~900円で、高級スーパーや百貨店での販売がメインです。

日本酒缶ブランド②『Canpai』

『Canpai』は海外向けのブランドで、よりトレンド志向で若年層をターゲットとした商品です。数種類を大量生産しており、スーパーやコンビニなどの量販店で販売しています。価格は400円です。

日本酒缶ブランドが解決できる課題

リサイクル可能でCO2排出量をカット

缶はリサイクル率が98%と高く、CO2の排出量も他のビン類に比べて70%削減できるため、環境にやさしい素材であるといえます。

酒米の消費に貢献

ご飯では1合食べるのがやっとですが、日本酒であれば1合缶を2~3本飲める人も多いのではないでしょうか。そういった点で、日本酒缶ブランドは酒米の消費に貢献できます。

日本酒缶ブランドの優位性

前述の環境にやさしいという点で日本酒缶はビンよりも優れていますが、重さもビンの半分ほどであるため、輸送費を削減でき、持ち運びにも便利です。缶はUVを100%カットできるので品質も担保できます。また、少量の缶にすることで高価格な日本酒も手に取りやすい価格に設定できるなど、様々な魅力があります。

日本酒缶ブランドの今後の展望

日本酒缶の生産数が1億本に到達すると酒米の消費量が5%アップするという試算から、2023年は100万本の生産を目指します。現在、香港やシンガポール、アメリカやブラジルなどへ輸出していますが、今後はヨーロッパへも拡大予定です。
将来的には、日本酒缶を知ることでその地域に実際に訪れてもらう仕掛けづくりも検討しています。

関連URL:https://agnavi.co.jp/services_sake_jp.php
問い合わせ先:sgen@agnavi.jp

【特別賞】シン・ゴハン『まあるいご飯のおやつ』小南藤枝さん(衣笠屋)


「衣笠屋」の小南藤枝さんは、自身の経験から「子供たちに栄養のあるおやつを提供したい」と考え、『まあるいご飯のおやつ』の開発を始めました。

『まあるいご飯のおやつ』とは

『まあるいご飯のおやつ』は、ミルフィーユ状にしたご飯の間に具材を挟み、薄皮で包んだお饅頭のような見た目のおやつです。2014年にはその製造技術で特許を取得し、2017年には商標登録もしています。様々な具材を組み合わせて入れることができるため、1個でたんぱく質も野菜もバランス良く摂取できます。また、薄皮で包むことでカレーなどの粘度の低い具材も入れられるため、組み合わせのバリエーションは無限にあります。

『まあるいご飯のおやつ』が解決できる課題

米の消費量アップ・フードロス削減に貢献

『まあるいご飯のおやつ』は材料に米を使用した手軽に食べられるおやつであることから、米の消費量アップに貢献できます。また保存性に優れており、冷凍しても味が変わらないことからフードロスも削減でき、サステナブルであるといえます。

貧困層の子供たちの栄養改善

『まあるいご飯のおやつ』は1個でバランス良く栄養が摂れる上、おにぎりなどと同程度の価格で購入できます。食事をしっかりと摂ることが難しい、貧困状態にある子供たちがこの食品で栄養を摂ることによって心身が健康になり、勉学に集中できるようになれば、将来の生活を安定させて貧困の連鎖を断つ可能性が広がります。

『まあるいご飯のおやつ』の優位性

『まあるいご飯のおやつ』の競合食品として、おにぎりやサンドイッチがあげられます。
おにぎりは野菜との相性が悪く、反対にサンドイッチは具材が生野菜に偏りがちですが、『まあるいご飯のおやつ』はバランスの良さが強みです。また、サンドイッチが平均300円程度に対し130円という手に取りやすい価格であることも魅力です。さらに、おにぎりやサンドイッチと比べて形を自由に変えられるため、子供が好きな形にすれば苦手な食材でも喜んで食べられます。

『まあるいご飯のおやつ』の今後の展望

現在、『まあるいご飯のおやつ』はInstagramにてマーケティングを行っていますが、今後はライセンスの販売を進めていき、コンビニなどで気軽に買える商品にすることが目標です。また、栄養価が高く味のバリエーションも豊富で飽きにくく、保存性に優れているという点から、災害食としての活用も視野に入れています。

関連URL:https://www.instagram.com/kinugasabachan/
問い合わせ先:nz954q78@yk.commufa.jp

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サステナブル

日本でも有機食品が増えつつある理由とは?【食品企業のためのサステナブル経営(第14回)】

前回の記事を読む:サステナブル経営のための3つの疑問【食品企業のためのサステナブル経営(第13回)】あなたは有機食品と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 価格が高い。供給が不安定で取り扱いが難しい。ごく一部の限られた特殊なマーケットであり、自分たちとはあまり関係がない。そのように考えられる方がまだまだ多いのではないかと思います。地域ぐるみの有機農業に動く市町村と農業者たしかに少し前まではそう思われてもしかたない状況でしたが、この数年の間に日本国内での状況は急速に変化しています。消費者の意識の変化もありますが、最大の理由は農水省の「みどりの食料システム戦略」(以下みどり戦略)かもしれません。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、2021年に策定されたこの戦略で、農水省は2050年までに国内のオーガニック市場を拡大し、有機農業の取組面積を耕地面積全体の25%(100 万ha)に拡大することを目指すとしています。大変野心的な目標なのですが、現在日本での割合がわずか0.5%であることを考えると、これまで長く有機農業に関わってきた方々や団体からすら現実的でないとの声が上がったほどでした。けれども、実際にはこの計画はかなりうまく走り始めているようです。農水省では有機農業を地域ぐるみで推進する市町村、オーガニックビレッジを募集しており、目標を2025年までに100市町村、2030年までに200市町村としています。ところがなんと2023年度中にその数は93市町村となり、最初の予定はほぼ達成してしまったのです。この勢いであれば、2025年には2030年までの目標も易々と実現してしまうかもしれません。もちろん有機農業が実際に定着するかは別問題ですし、いろいろと問題も出てくるでしょう。しかし、農業従事者において有機農業への関心は確実に高まっているように思います。2021年秋以降の化学肥料の高騰に悲鳴を上げた農家が、有機農業に関心を持ったのかもしれません。日本の化学肥料の原料はほぼ100%海外からの輸入で、今後の国際情勢や為替を考えると、こうした化学肥料に依存することは間違いなく高コスト構造になってしまうからです。国が有機農業へと舵を切る要因一方、農水省が有機農業への転換に注力するのには、また別の要因がありそうです。みどり戦略は、EUが2020年に発表した農場から食卓(Farm to Folk)戦略をお手本にしたと言われています。こちらは2030年を目標年に、化学農薬の使用量を50%削減、化学肥料の使用量を少なくとも20%削減、 家畜および養殖に使用される抗菌剤の販売量を50%削減、一人あたり食品廃棄物を50%削減、そして有機農業の取り組み面積を少なくとも耕地の25%まで拡大することを掲げています。これはEUの持続可能な経済戦略であるグリーンニューディールの一環であり、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出量ゼロ)で持続可能な経済に公正かつ包摂的に移行しようとするものです。そのためには環境負荷の大きい農業を、より持続可能なものに変革する必要があるのです。日本も2050年にカーボンニュートラルを達成することを掲げていますので、農業のあり方も同様に変換していく必要があります。その結果、政策もかなり似通って来て、みどり戦略では2050年までに農林水産業においてCO2ゼロエミッションを実現、化学農薬の使用量を50%削減、化学肥料の使用量を20%削減、有機農業取り組み面積割合を25%まで拡大としたのです。有機農業によりすべての環境問題が解決できるわけではありませんが、化学農薬の使用量を大幅に減らし、化学肥料を使用しない有機農業は、CO2の排出量を減らすと同時に土壌や水質を保護し、また生物多様性への影響を大幅に低くすることができます。そして農業そのものをよりレジリエント(回復力がある)で持続可能なものにすると考えられています。安全とおいしさを求める消費者のニーズももちろん需要側からのニーズもあります。有機食品の方が農薬や化学肥料の使用が制限されるため、有害な化学物質の摂取量を減らすことができ、安全と考えられるのです。また、有機食品の方が味わいが良く、栄養価が高いと考えている人たちもいます。これは必ずしも科学的に立証されてはいないのですが、確かに有機栽培された果物や野菜は、慣行栽培のものより美味しいように私も感じることがあります。また最近では、エシカルな消費をしたいという理由で有機食品を好む消費者も増えています。そうしたこともあり、有機食品を嗜好する消費者は一定数存在しますし、有機食品は高い価格で取引されるのです。特に海外への輸出を考えると、有機食品の方が好まれ、付加価値を高めてブランド化しやすいという傾向があるようです。価格の高さは原料として使用する際のデメリットにもなりますが、それとて有機栽培された原料を使っていることをアピールできれば販売価格に転嫁可能でしょうし、それ以上に付加価値を高めることも考えられます。となると問題は供給量が少ないことや、供給がしばしば不安定であることでしょう。しかし、今や大きな政策的な後押しがありますので、そうした問題も少しずつ解決していくでしょうし、何より有機食品に対するニーズは増えることはあっても減ることはなさそうです。だとすれば、これを積極的に扱わないない手はないと思います。そしてみなさんが有機食材の利用を増やしていけば、それが有機食品を普及させ、また有機食材の生産拡大を可能にして、供給にまつわる問題を解決していくことでしょう。そしてそれが環境問題の解決にも大きく貢献するとしたら、こんなに良い話はありませんね。それでもやっぱり有機は高いし、育てるのは大変だしねぇ… そう考える方には、実はもっとすごい農法があります(笑)それについては次回、詳しくお話しをしたいと思います。

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サステナブル経営のための3つの疑問【食品企業のためのサステナブル経営(第13回)】

先日1月30日にオンラインで、「食品企業のためのサステナブル経営入門」セミナーが開催されました。190名の方にご参加いただき、その半分以上が食品原料の取り扱いに関わる企業の方でした。参加者の4分の1弱が経営層でしたが、環境・SDGs関連や研究・開発の方が次に多く、次いで営業、マーケティング、事業開発という順番でした。タイトルに「サステナブル経営」とあるので、経営層や環境部門の方が多かったのは当然としても、それ以外の事業活動の本流に関わる方々に多数ご参加いただいたことが特徴的だったように思います。サステナビリティやサステナブル経営が、食品企業においてもいよいよ重要な経営課題となってきたことを感じます。セミナーの開催レポートはこちら:【開催レポート】シェアシマ特別セミナー「食品企業のためのサステナブル経営入門」(1/30)サステナブル経営入門セミナーを振り返って実際、私が講演の冒頭でもお話ししたように、これは食品業界もSDGs(持続可能な開発目標)の達成に何か少しでも貢献しましょうというレベルの問題ではなく、サステナビリティを考えないことには、原材料が安定的に調達できなくなる、取引が継続してもらえなくなる、お客様の嗜好もどんどん変わっている、という事業の継続性に関わる問題なのです。それがゆえに、農水省の中世古さまがご説明くださったように、行政も「食品企業のためのサステナブル経営に関するガイダンス」を発表して、事業者に取り組みを促したり、行政としてそれを後押しする政策を次々に打ち出しています。あるいは日本マクドナルドの牧さまのご発表にあったように、企業も持続可能な原材料の確保のための体制を整え、さらにはお客様にも情報提供をしながら進めています。そして重要なのは、これがグローバル企業や大企業に限った話ではなく、規模の小さな会社や、農業・水産業の現場にとっても考えるべき課題であるということです。具体的に注意すべき内容やその対策については本連載でしっかりカバーしていきますので、ご興味のある方は連載の過去記事を読んでいただいたり、これからの記事もフォローしていただければと思います。連載をはじめから読む:食品企業がサステナビリティを考えなくてはいけないわけ【食品企業のためのサステナブル経営(第1回)】今回は、このセミナーの際にいただいたいくつかのご質問に、この場所をお借りして回答したいと思います。と言うのも、いずれも質問者の方だけでなく、関係するすべての方々に知っていただきたい内容だからです。それでは早速まいりましょう。質問:2050年に世界人口95億人、今のフードシステムでは養えないとのことですが、これはカロリーベースで養えないというこということでしょうか?回答:カロリーベースで足りなくなるという意味もありますが、残念ながら今のままですともっと悲惨なことになりそうです。まず、生産量を増やそうとすると畑を増やす必要がありますが、新しく畑を作る場所はもう残っていません。それどころか既存の畑が劣化していることから、下手をすると今より生産量が大幅に落ちる地域もあるでしょう。水資源もどんどん足りなくなります。また気候変動の影響も厳しくなりますので、農作物の質が低下したり、収量が減る場所が多くなります(寒い地方など、ごく一部例外はあります)。そして、台風やサイクロン、洪水、旱魃などの異常気象によって、その年の収穫が激減するという事象も今より多く発生するようになるでしょう。一方、病害虫による被害は、気温の上昇により増えると考えられます。そしてそもそも、このペースで異常気象による被害が増えると、2050年には経済そのものがまったく回らなくなることすら危惧されているのです。これ以外にも、水産資源の枯渇や花粉媒介者の激減など深刻な問題は山積みであり、このままでは95億人どころか、今より少ない人口すら支えることができなくなると懸念されています。質問:食品ロス、廃棄、代替肉への転換、農法の改善など、いくつかのフードシステムの改善がありますが、日本の食品産業が実施する場合に1番効果があるフードシステムの改善はどれでしょうか?回答:どれがもっとも効果があるかではなく、すべてに取り組む必要があります。できることすべてに取り組まなければならないのです。その上で言えば、手をつけやすいのは食品ロスの削減ですが、これもできる範囲で少しすればいいのではなく、徹底的にすることが重要です。その次に進めていただきたいのは、使用する原材料について、サプライチェーンと協働して負荷を減らしていくということです。農法の改善などについても、需要家が求めたり、協力することで進みやすくなります。そして食習慣を変えていくことも必要ですし、影響は大きいのですが、これは一番時間がかかるかもしれません。消費者の方の意識を変える必要があるのと、そもそも代替となる食物や調理方法を考え、作り出していく必要があるからです。しかし、ビジネス的には新しいマーケットになりますので、こちらにもぜひ力を入れて取り組んでいただきたいところです。質問:最後のスライドにあった「ビジネスとして」という観点、サステイナブルやSDGsというからみになるとなぜか そのビジネスという観点が抜けてしまい、独り歩きしてしまうのですが、どうするのがビジネスとサステイナブルが共存できますでしょうか?回答:それについてはぜひこの連載を毎回お読みいただきたいと思うのですが(笑)、一つだけ大切なことを言うと、今のビジネスのやり方を続けて、それにサステナビリティやSDGsの取組を付け加える形にはしないということです。そうではなく、すべてのビジネスの前提として、サステナビリティを考えるようにする必要があります。そうしないとサステナビリティと両立するようなビジネスにはなりません。あるいは、ビジネスの観点があるサステナビリティにはなりません。なお、以下の質問は日本マクドナルドの牧さまに対してのものなのですが、本質を捉えたとても良い質問なので、私からもお答えしたいと思います。質問:マクドナルドだけの話ではないが、脱プラに伴って紙資材の利用が増加していると思いますが、 紙の原料はもちろん木材です。プラスチックは減った一方で森林も減ってしまっては元も子もないと思いますが、環境負荷に対する本質的な評価はどのようにしているのでしょうか。回答:とても良いところに目をつけられました。でも、安心してください。紙は再生可能な資源であり、きちんと再植林をしながら使っていれば森がなくなることはありません。そして、マクドナルドが使用しているFSC認証紙はそのような形で生産されていることを第三者が確認しているものですから、心配する必要はまずないと言っていいでしょう。ただし、認証紙だからと言って無駄遣いするのはよくありません。他の環境負荷もあるからです。なるべく節約したり、リサイクルした方が良いことは言うまでもありません。一方で、ある負荷を下げることで、別の負荷を増やしてしまうという二律背反、いわゆるトレードオフは、いろいろな場面で起こります。なので、そこに目をつけたこの質問はとても良い質問なのです。そういう場合、そもそも問題の性質が異なったりすると直接的に比較しにくいので判断に困ることも多いのですが、それでもどう考えたら良いのか、きちんと整理することは可能です。ただし、説明すると少し長くなるので、詳しい説明は今後の宿題とさせてください。くれぐれも、一つの問題だけしか見なかったり、経済的な軸だけで判断したり、ということは避けてくださいね。次回の記事を読む:日本でも有機食品が増えつつある理由とは?【食品企業のためのサステナブル経営(第14回)】

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天然水産物を持続可能に利用するには?(後編)【食品企業のためのサステナブル経営(第12回)】

前回の記事を読む:天然水産物を持続可能に利用するには?(前編)【食品企業のためのサステナブル経営(第11回)】ここでは世界的に広く普及しているこのMSC認証を例に、天然水産物を漁獲する漁業に関する認証について説明したいと思います。MSC認証には、漁業が持続可能な形で行われていることを認証する「MSC漁業認証」と、認証を取得した漁業で獲られたものがそうでない水産物と混じらずに管理されていることを認証するMSC CoC認証(※)がありますが、今回は漁業そのものにまつわる課題をまず説明したいので、漁業認証についてのみ紹介します。※CoCはChain of Custodyの略。水産物の水揚げ以降のサプライチェーンに対する加工・流通の管理認証。MSC漁業認証を取得した漁業で獲られた水産物をMSC認証のものとして取り扱うためには、MSC CoC認証が必要となります。持続可能な漁業のための3つの原則MSC漁業認証は、持続可能な漁業となるために3つの原則からなる要求事項を規定しています。3つの原則は以下の通りです。(出典:MSC)資源の持続可能性漁業が生態系に与える影響漁業の管理システム原則1は言わずもがなですが、過剰な漁獲を行わず、資源を枯渇させないようにしていることを意味します。資源量を把握し、資源を減らさない範囲で漁獲するということです。そして原則2は、対象となる魚種だけでなく、その漁業を行ったり、また漁業が依存する生態系を持続する形で漁業を行うことを意味しています。例えば、対象魚種以外を漁獲してしまう「混獲」と言われる問題があります。混獲と言うと、対象魚種以外のものが若干混じって獲れてしまうような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には、対象魚種以外の方がはるかに多く獲られ、しかもそれが利用されずに廃棄されるようなことも多く起きています。これではたとえ対象魚種の資源量は維持できたとしても、生態系が損なわれてしまうことは容易に想像できるでしょう。そしてそれが結果的に対象魚種にも(悪)影響を与えるかもしれません。同様に、漁業によって海の環境を悪化させるようなことも、もちろんあってはいけません。そして最後に原則3ですが、原則1と2を満たすために、地域や国、あるいは国際的なルールを尊重した管理システムを持つことを求めています。きちんとした管理体制があることが重要なのです。世界の水産資源を守るための「現実解」日本では長らく、資源管理は地域に任されて来ました。1996年以降、少しずつ国が水産資源管理制度を整えるようになってきていますが、それでも欧州や北米などの地域に比べて、まだまだ不十分な部分が少なくありません。制度ととしては存在していても、科学よりもこれまでの慣習などを優先している場合もあり、十分に機能していない場合もあります。さらに、世界の海の61%(面積ベース)を占める公海について言えば、各種の条約が資源管理を定めるようになって来ているものの、こちらもまだ十分とは言えない状況です。ですので、MSC認証のような制度を自主的に利用し、関係者全員で地域の、そして世界の水産資源を保全し、公平かつ持続的な形で利用することが重要なのです。そして実際、水産資源管理がしっかりと行われ、MSC認証のような制度が普及している国々や地域では、水産資源量が維持され、漁獲高も高く、水産業は儲かる産業で若者にも人気があるという好循環ができています。食品会社は認証水産物を優先的に調達することで、水産資源管理が促進され、水産資源量を維持・拡大することに間接的に貢献することができます。なお水産業においては、漁業現場における労働安全衛生や人権の問題も近年非常に注目されています。MSC認証にも強制労働や児童労働に関する要求事項はありますが、今のところこうした課題すべてを包括的にカバーする認証制度はありませんので、いくつかの制度を組み合わせたり、自主的に調達基準を設けてサプライヤーと協働するなどの取り組みが必要です。もちろんこうした取り組みも、水産業を持続可能にすることに貢献することになりますし、その結果、食品産業そのものを持続可能にすることにもなるでしょう。このようにまだまだいろいろな課題があるのですが、今回のまとめとしては、天然水産物の場合には、資源量に余裕があるものを使うことが重要だということです。けれども、どの魚が資源量に余裕があるかは判断しにくいと思いますので、そのためには資源量に配慮した持続可能な漁業で獲られたMSC認証水産物などを材料として使うということが現実的な解になります。国際的にチェーン展開するホテルやレストランなどでは、調達の条件としてMSC認証水産物であることを指定するところも既に現れています。認証水産物を取り扱っていることが取引条件になる時代もすぐそこまで迫っていると言っていいでしょう。いきなり全面的とは言いませんが、まずはそうした材料を少しでも探して、使ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。次回の記事を読む:サステナブル経営のための3つの疑問【食品企業のためのサステナブル経営(第13回)】

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天然水産物を持続可能に利用するには?(前編)【食品企業のためのサステナブル経営(第11回)】

前回は水産養殖にまつわる様々な問題点について、そしてそうした問題がない持続可能な養殖水産物を見分けて利用する方法として、養殖認証を活用することをお話ししました。こうした認証マークがある原料や商品を買えば、養殖に起因する様々な環境や社会問題を回避することができるので、安心であり、また食品産業の持続可能性を担保するためにも役立つのです。それでは天然水産物の場合はどうしたら良いのでしょうか? 天然水産物には養殖水産物とは異なる問題が多々あります。特に気をつけなければいけないのが、資源量が毎年減っている問題です。連載第9回(これで問題解決?!ウナギの完全養殖)で紹介したように世界の漁獲高は成長を続けているのですが、天然水産物のそれは1980年代後半からはほとんど成長していません。もうそれ以上は獲れなくなってしまったので、それを養殖水産物が補っているのです。減り続ける天然水産物、影響は日本にも国連食糧農業機関(FAO)のデータで世界の天然水産資源の状態を見てみると、50年前には世界の水産資源の約4割にまだ余裕がありました。そして当時でも5割は資源量の上限まで獲られており、それ以上に獲っている、つまりいわゆる乱獲状態にあるものも1割程度ありました。ところが近年では乱獲状態が3割以上、資源量の限界まで利用しているものが約6割、余裕があるものは1割近くにまで減ってしまっているのです。このままこの傾向が続けば、資原量に余裕がある魚種はなくなり、多くのものが乱獲状態になってしまうでしょう。天然水産物の捕獲が増えないのは当然ですし、今後さらに減ってしまってもおかしくありません。図:”The State of World Fisheries and Aquaculture 2022” (FAO, 2022)日本近海においても、連載第9回で取り上げたウナギはもちろん、サンマ、スルメイカ、サケ、スケトウダラ、マイワシなど、様々な魚が獲れなくなって来ています。いろいろな産地があるので、店頭にまったく並ばなくなるということはまだ起きていませんが、以前よりも見かけることが少なくなったり、価格が高騰していることには、きっと多くの方がお気づきでしょう。獲り過ぎを防ぐための管理の必要性漁獲量がこのように急激に減ってしまった理由はいくつか考えられます。気候危機によって水温が上昇した、海流のコースが変わった、ということもしばしば指摘されます。沿岸の開発や汚染で魚、特に稚魚のすみかがなくなったということもあるでしょう。また、世界的に需要が伸び、他国の漁船が同じ漁場で魚を獲るようになったということを挙げる方もいます。しかし、なんと言っても最大の理由は獲り過ぎです。もちろん私たちは太古の昔から魚を獲って食べて来ました。特に日本は世界でも有数の水産国でした。日本のまわりの海は豊かで、長い間、資源量は十分にあったのです。そもそも魚は大変多くの卵を生みますので、人間がある程度捕獲しても、資源量を回復しやすいという性質があります。理論的には、人間が資源を利用した方が、一定期間内の生産量は大きくなるとも考えられています。とは言え、限界を超えて捕獲してしまうと、資源量はもはや回復できなくなってしまいます。漁獲技術が進化し、支えるべき人口も増えた現在、漁獲量がその限界を超えつつあるのです。これまでと同じようなやり方で漁業を続けていることはもうできないと考える必要があります。そこで必要とされるのが、科学に基づく持続可能な水産資源管理です。そして、そのような水産資源管理を行なった漁業を行なっているかどうかを審査する認証制度や、それに基づく認証ラベルも存在しています。実は前回取り上げた養殖に関する認証よりも、漁業に関する認証制度の方が先に開発されています。代表的なものがMSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)によるMSC認証で、認証を取得した漁業で獲られた天然の水産物にはMSC「海のエコラベル」が付けられます。こうした認証制度を活用することが、天然水産物においても持続可能な利用につながるのです。詳細については次回お話ししたいと思います。次回の記事を読む:天然水産物を持続可能に利用するには?(後編)【食品企業のためのサステナブル経営(第12回)】

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持続可能な養殖水産物を使用する【食品企業のためのサステナブル経営(第10回)】

前回の記事を読む:これで問題解決?!ウナギの完全養殖【食品企業のためのサステナブル経営(第9回)】前回は、「養殖であれば安心というわけではない」ということをお伝えしました。一方で、天然水産物の資源量は頭打ちの中、養殖水産物の重要性と存在感はますます高まっています。どうしたら養殖水産物を持続可能にできるのでしょうか?まず大切なことは、「養殖が悪い=持続不可能である」ということではないということです。問題なのは養殖の仕方であって、養殖がすべて否定されるわけではありません。では逆に、養殖にはどんな問題があるかをまず考えてみましょう。その問題をクリアすれば、環境や社会に配慮した養殖ができるからです。持続可能な養殖へ、まずは問題点を知るまず最初の問題として、地域の生物多様性や生態系に悪影響を与えてしまうリスクがあります。たとえば日本に輸入されるエビの多くはタイやベトナムなどの熱帯域で養殖されていて、その養殖池はマングローブ林を破壊して作られることも少なくありません。海と陸の接点に成立するマングローブ林は、エビやカニだけでなく、魚の産卵や子育ての場所として、また津波や高潮などから海岸沿いの街や暮らしを守るために、重要な役割を果たしています。そうした大切な生態系やそこに棲む生物種が失われることは、大変深刻な問題です。次に餌の問題があります。海藻やホタテのように人間が餌をやる必要がないタイプの養殖もありますが、魚やエビの養殖のためには人工的な給餌が必要です。サーモンであれば、体重を1kg増やすために1.2kgの餌で済みます。つまり、魚の体重の1.2倍の重量の餌があれば良いのです。ところが、マダイですとその割合は3倍、ヒラメは4倍、ハマチは6倍、マグロに至ってはなんと15倍と言われます。これは牛肉1kg生産するのに11kgの穀物が必要という数字と比べてもけっして少なくありません。この割合を増肉係数と呼びますが、増肉係数の高い魚種は、コストが高いだけでなく、環境負荷も高いのです。さらに問題なのは、何を餌にするかです。かつてはイワシやサバなどの多く獲れる魚をそのまま餌にしていました。もちろんこれは乱獲につながり、餌の持続可能性が懸念されます。さらには、生餌は食べ残しが養殖場や周辺の水質を汚染(富栄養化)するという問題もあります。最近は栄養成分を考え、また食べ残しがないように設計された固形や半固形の餌が増えていますが、これらについても製造プロセス全体を通じての環境負荷に注意する必要があります。汚染という意味では、食べ残しだけでなく、魚の排泄物による汚染にも十分な注意が必要です。養殖は育てる魚の密度が非常に高くなるので、たとえそれが有機物であっても分解が間に合わず、周囲の生態系に悪影響を与えることがあるのです。また高密度な養殖では病気が発生しやすくなるのでそれを治療したり予防するための抗生物質やワクチンが多用されがちです。こうした化学物質による水質汚染も問題です。そして長期的には、これらが養殖場の底に堆積してしまうのです。エビなど閉じた池の中で養殖する場合には、堆積物による汚染は養殖そのものにも悪影響を与えます。定期的に養殖池の水を入れ替えるのですが、排出された水は周囲の水域を汚染します。そしてそれを繰り返すようにエビが育たなくなると、ついには養殖池を放棄し、再びマングローブ林などを伐採・開発して次の新しい養殖池を作るのです。これでは収奪的で持続不可能な養殖と言わざるを得ません。そしてもう一つ大きな問題は、地域社会への影響です。養殖が常に安定的にもうかるビジネスであれば良いのですが、販売価格は市場需要の影響を受けるのでむしろ不安定です。餌代や管理費用など、養殖は実はかなりコストがかかります。しかし、一般には天然水産物より安い価格となり、生産者が抱える経済的なリスクは少なくありません。そうしたこともあり、コスト削減のために環境対策がおろそかになったり、働く方の処遇が悪くなったり、労働安全性が軽視されるようになったり… そんなことがあっては困るのですが、現実にはそういう問題が今なお起きています。これは当事者にとって深刻な問題であるだけでなく、食の持続可能性という観点からも重大な問題です。「責任ある養殖」が持続可能性をもたらすこのように養殖には様々な問題やリスクがあります。けれどもいまや水産物の半分以上を占める養殖水産物は、今後の水産物需要、さらにはタンパク質需要を支えるためにも重要です。安易に行われる持続性のない養殖ではなく、持続可能性の高い、責任ある養殖に切り替えていく必要があります。そのためにはそれを原料や素材として使う川下側も、持続可能なものを選んで使用することが必要です。なぜなら使う側からの需要があれば、生産者も持続可能な養殖にするモチベーションが高まるからです。そのような持続可能な養殖水産物を使うとしたら、どうすれば見分けることができるのでしょうか?上に述べたようなことを一つひとつ確認することは現実には不可能でしょう。そのため、第三者が代わりに審査を行い、上記のような課題にしっかり配慮しながら養殖されたものには認証マークを付与する制度があります。もっとも代表的なものにASC(※Aquaculture Stewardship Council; 水産養殖管理協議会)によるASCラベルがあります。ASCは、環境と社会への影響を最小限に抑えた養殖場にASC認証を発行しており、そうした養殖場で育てられた水産物にはASCラベルを付与し、それが持続可能な水産物であることを消費者が簡単にわかる仕組みを構築しています。こうしたASCラベルの付いた養殖物を使用したり販売したりすることが、持続可能な養殖を推進する大きな力になるのです。なお、養殖においては、どのような配慮を行うべきかは水産物の種類ごとに異なります。ASCは現在までのところ、サケ、ブリ・スギ、淡水マス、スズキ・タイ・オオニベ、ティラピア、パンガシウス、二枚貝(カキ、ムール貝、アサリ、ホタテ)、アワビ、エビ、カレイ目の魚類、熱帯魚類、海藻の12種の魚介類を認証の対象​​としていますが、ニーズがあれば今後さらにこの種類は拡大されるでしょう。また、ASCラベルの使用にあたっては厳密なルールがありますので、ラベルのついた材料を使っているからと言って自社製品やメニューに勝手にラベルを使うことはできないので注意が必要です。※参考:https://jp.asc-aqua.org/次回の記事を読む:天然水産物を持続可能に利用するには?【食品企業のためのサステナブル経営(第11回)】