記事アイキャッチ

過剰な肥料にご用心【食品企業のためのサステナブル経営(第17回)】

前回の記事を読む:どうする、カカオの暴騰?【食品企業のためのサステナブル経営(第16回)】


一つ前の回でいま世界が注目する「再生農業」を紹介しましたが、再生農業が従来の農業と大きく異なる点の一つに、肥料を基本的に使わないことが挙げられます。(農業の大革命が進行中!?【食品企業のためのサステナブル経営(第15回)】

これは、土壌生態系が豊かであれば、人間が肥料を追加しなくても必要な養分が土壌に存在するという考え方に基づいています。そして、再生農業は養分が十分に供給されるように土壌を豊かに再生することを目指しているのです。もしこのやり方が機能するとすれば、肥料を施す手間やコストを削減できるため、農家にとっては大きなメリットとなります。しかし、メリットはこれに留まりません。実は、肥料そのものにもいくつか重大な問題があるからです。

肥料の問題点から再生農業を考える



そもそも、肥料は非常に大きな環境汚染源であることをご存知でしょうか。生物多様性の喪失が大きな地球環境問題となっていますが、その原因の一つが肥料による環境汚染なのです。環境汚染というと多くの方は化学薬品や農薬を連想すると思いますが、実際には肥料の影響が非常に大きいのです。なぜなら、そもそも農業は全世界で広く行われている人間活動であり、近代的な農業では肥料を与えることが常識化しています。そして、農家は生産性を上げようとして過剰に肥料を使用する傾向があるのです。作物や地域にもよりますが、一般に与えた肥料の半分程度、場合によっては3割ぐらいしか作物は吸収しておらず、残りは環境に放出されていると考えられます。そのため、過剰な肥料が周辺の土壌を、さらには下流地域を栄養化し、生態系を撹乱しているのです。このような環境問題を防ぐために、肥料を使わない再生農業は大きな利点を持つと言えます。

環境だけでなく影響は人の健康にも



過剰な肥料の問題はそれにとどまりません。人間の健康にも悪影響を与えています。肥料の主要成分は硝酸態窒素で、これは葉緑素をはじめとするタンパク質の原料として植物にとって重要です。しかし、植物が体内で使いきれなかった過剰の硝酸態窒素は、そのまま人間が摂取することになります。体内に入った硝酸態窒素の大部分は尿から排泄されるのですが、消化器官の中で微生物により還元され、亜硝酸態窒素となるものもあります。これが消化器官内で化学反応により発がん性が示唆されているニトロソアミンを作る可能性があるのです。つまり、硝酸態窒素が過剰な作物を摂取することは、人間の健康被害につながる恐れもあるのです。

さらに亜硝酸態窒素が血液中のヘモグロビンと反応すると、酸素を運搬する機能のない血色素であるメトヘモグロビンを生成させてしまいます。乳幼児は胃酸の分泌が少ないため、特に​亜硝酸態窒素を生じやすく、この現象が発生しやすいとされます。メトヘモグロビンの濃度が高くなるとチアノーゼを起こし、さらには呼吸困難・意識障害などの症状を出現させ、最悪の場合死亡することもあります。乳幼児でこの問題が起きやすく、起きると全身が真っ青になることから、ブルーベイビー症候群と呼ばれて海外では恐れられています。

農業による環境汚染の規制、日本では



この問題は1945年にアメリカの農場で最初に報告されていますが、その後1970年代に欧州で大きな問題となり、農薬や家畜の飼育による土壌や水質の硝酸態窒素による汚染を防ぐための規制が導入されました。実は、これがGAP(Good Agriculture Practice)のきっかけです。GAPは欧州への農作物輸出の品質基準と認識されている方も多いと思いますが、実際には農業による環境汚染を防ぐための規制から始まったのです。また、EUでは葉物野菜について、残留硝酸態窒素濃度の基準値も定められており、これを超えたものは出荷できません。

日本ではこの問題があまり顕在化しなかったため、一般にはあまり問題として認識されていません。そのために野菜の残留硝酸態窒素の基準も設けられていません。ところが実際に測定してみると、EUの基準より数倍、場合によっては桁違いに多い硝酸態窒素が検出されることも少なくないようです。日本でも水道水に対してはWHOのガイドラインと同じ10 mg/Lという基準が定められており、これはEUよりも厳しいのですが、井戸水や地下水にはそれ以上の硝酸態窒素が含まれていることがあるのでやはり注意が必要です。

こうしたことは、最近になって日本の野菜を海外に輸出しようとしたときに問題になったのですが、もちろん問題の本質は輸出ができないということではありません。なにより日本人の健康にとって、大きな問題なのです。この問題を防ぐためには肥料の適正使用が重要ですが、再生農業のようにそもそも肥料を使わなくてすむのであれば、こうした問題も同時に解決することができるのです。

農業生産と食品製造の課題は共に



肥料に関わる問題は、直接的には農家にとっての課題であり、農家が中心になって取り組む必要があります。しかし、肥料を使わない、少なくとも使用量を減らして適正に使う農業が広がれば、農作物の品質が向上するだけでなく、生産コストも削減され、食品企業としても大きなメリットがあります。特にウクライナ危機以降、窒素肥料の価格が高騰し、日本だけでなく世界的な農作物の価格上昇の一因となっています。こうした状況を考えると、今は肥料の過剰利用を再考するにはとても良いタイミングと言えるかもしれません。

そしてもちろん、これを単に農家の問題として捉えるべきではなく、食品メーカーが生産者と一緒にこの問題の解決に取り組むことに非常に意義があります。これは、日本の農業と食品をいろいろな意味でサステナブルにする絶好の機会なのです。



次回の記事を読む:食品もエシカルが求められる時代へ【食品企業のためのサステナブル経営(第18回)】

執筆者プロフ
足立直樹

サステナブル経営アドバイザー。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役。東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。植物生態学の研究者としてマレーシアの熱帯林で研究をし、帰国後、国立環境研究所を辞して独立。その後は、企業と生物多様性およびサステナブル調達の日本の第一人者として、日本の食品会社、飲料会社、流通会社、総合商社等の調達を持続可能にするプロジェクトに数多く参画されています。2018年に拠点を東京から京都に移し、地域企業の価値創造や海外発信の支援にも力を入れていて、環境省を筆頭に、農水省、消費者庁等の委員を数多く歴任されています。

x
facebook

おすすめ記事

記事サムネイル
サステナブル

経済的にもサステナブルにするには【食品企業のためのサステナブル経営(第19回)】

前回の記事を読む:食品もエシカルが求められる時代へ【食品企業のためのサステナブル経営(第18回)】1ドル160円を超える超円安が一服し、海外からの輸入原料の価格も若干落ち着いてホッとしている方も多いかもしれません。しかし、それでも依然としてかなりの円安ですし、今後、再びより円安に進む可能性もあり、予断を許さない状況です。もちろん円安だけでなく、原材料そのものの価格や食品価格が世界的に高騰していることも忘れてはなりません。本連載の第16回ではカカオ豆の暴騰の問題を取り上げましたが、その傾向は今も続いています。こうした問題に対しては、やはり根本的な解決、すなわち農場のさまざまな問題に対応し、安定的な生産ができるよう農家を支援していくしかないでしょう。市場から買い付けているだけでは、今後もこうした価格の乱高下に右往左往することになります。最近ではオレンジジュースの原料が高騰しています。それどころか、入手すらできなくなったメーカーは販売を中止しています。これまでには有り得なかった事態です。根本的な解決のためには、カカオの場合と同様で、農家を支援するなどの対策が必要です。まさにサステナビリティの課題そのものですが、今回はその経済的な側面について考えたいと思います。下がり続けてきた食品価格、悪循環は業界全体に日本では20年以上にわたりデフレ傾向が続き、企業は商品価格を下げることを競い、その結果、消費者は1円でも安い商品を求め、企業はそれに応じてさらに価格を下げざるを得ませんでした。その結果、一体何が起きたのでしょうか?値下げで一時的に売り上げを維持することはできたかもしれませんが、利益率は低下し、従業員の給与を上げることが難しくなったり、サプライヤーに対しても値下げを強く求める企業が増えたのではなかったでしょうか。その結果、働く人々は疲弊し、退職してしまった方もいるでしょう。しかし、低い給料のままでは、新たな人材を確保することも難しかったはずです。少ない人数で同じ仕事を回すことになれば、現場はさらに疲弊します。サプライヤーも同様です。場合によっては、商売から撤退せざるを得なくなったサプライヤーもあったでしょう。困るのは発注側です。こうした悪き値下げの連鎖が調達を不安定にすることはなかったと断言できる企業は、どのぐらいあるでしょうでしょうか? つまり、無理なコスト削減は、様々な環境や労働問題の原因にもなり、業界全体の問題を深刻化させ、経営を持続不可能なものにしてきたのです。もちろん、お手頃な価格は大きな魅力であり、消費者はそれを歓迎するでしょう。企業がそれに応えることも重要ですが、問題はどうやって、どの程度まで行うかです。企業努力によるコスト削減と無理なコストカットは全く異なるものだからです。無駄をなくすことは大切ですし、最初のコストカットには大きな効果があります。しかし、コスト削減を永遠に繰り返すことは不可能です。やがてコスト削減は限界に達しますし、そうしたコスト競争においては、大規模にビジネスを行う大手企業が有利になります。中小企業や零細企業が苦境に立たされるのです。その結果、市場の寡占化が進み、ますます大資本が有利な状況が強化されます。消費者のための「企業努力」が裏目にまた、今のような原材料価格の高騰が発生した場合、十分な利益を確保してこなかった企業は対応が非常に難しくなります。新たな対策を打ち出そうにも、そのための資金が手元にないからです。今後、サプライチェーン最上流の農家を支援することはますます重要になりますが、そのためには十分な体力、つまり利益を上げていることが不可欠なのです。当たり前のことですが、ビジネスを持続するためには、適切な利益を上げ、それを従業員やサプライヤー、そして将来のために投資することが必要です。コストカットだけでは、そのために必要な原資を生み出すことはできないのです。私は、食品企業に限らず、日本の経済力が低下してしまった大きな原因の一つは、過度の価格競争に陥り、コストカットのみに注力したことにあったと考えています。私たちが本来目指すべき経営は、良い品物を作り、その価値に見合った価格で販売し、しっかりと利益を得ることです。それは強欲でもなんでもなく、次の発展に投資するために必要なことなのです。それなしに発展はできません。価格を下げるだけでは一時凌ぎにはなっても、長期的な成功には結びつかないのです。価格を上げると消費者がついてこなくなるという声もあるでしょうが、それもこのデフレが問題なのです。緩やかに価格が上昇する経済では、給与も上がり、消費者の収入も増えますので、価格上昇にも対応できます。ところが日本の場合には、商品価格も、給与も、すべてが下がって余裕がなくなってしまったので、いざ価格が上昇し始めた時にそれに対応することが難しい状態になってしまったのです。消費者のためにと思って行ってきた「企業努力」が、結局は消費者の購買力を成長させず、自分たちの首を絞めることになってしまったというわけです。サステナブル経営のため、知恵と工夫で利益を生むそれでは、一体どうしたら良いのでしょうか? 企業にとって本当に重要なのは、売上高ではなく利益を維持することです。現在のようにインフレ傾向が続く状況では、適正な価格を設定し、適正な利益を確保することがまず重要です。たとえ売り上げは減ったとしても、きちんとした利益を確保することができれば、将来に投資することはできます。投資するだけの利益を得てないとしたら、それは経営の失敗です。この連載の一番の目的は、経営を持続可能にすることです。サステナビリティ課題への配慮は、それが正しいこと、求められていることだからでもあるのですが、それをしないことにはもはや経営は持続できないからです。そしてもう一つ経営を持続可能にするためには、経済的にも持続可能になることを目指さなければなりません。そのためには適正な利益を上げ、それを将来に投資することが必要不可欠なのです。そこまで含めて、サステナブルな経営です。ただし、「コストが上がったから値上げします」と言うのでは芸がありません。もちろん今のように全社が横並びで値上げをするような状況であれば、止むを得ず受け入れられるかもしれませんが、それがいつまでも続くわけではありません。ただ値上げをするのではなく、顧客に対して新たな価値を提供し、その価値に見合った価格を設定することが必要なのです。そのためには、知恵と工夫が必要です。例えば途上国のマーケットでよく行われて来た手法としては、パッケージを小型化・細分化することで、消費者が一度に支払う金額を減らし、購入しやすくするというやり方です。単位量あたりの価格は上がってしまうのですが、支払額が少なくなるため、消費者からは喜ばれ、無駄や廃棄物の削減にもつながります。もちろん企業にとっては、利益率が増えるので、購買力がまだ弱いマーケットでもビジネスが成り立つのです。ただし、パッケージを小型化することで廃棄物が増えてしまう可能性もあるため、その点には注意が必要です。これに対応して、最近では量り売りを復活させるというアイデアを実行する小売店も登場し、注目されています。これまでの常識に囚われず、新しい価値創造を考え、実行することが必要です。コストカットだけを続けるのは悪手であり、持続可能ではありません。経営が目指すべきは、より高い価値を提供し、その対価としてより高い利益を得ることです。またそうした価値創造が可能な環境を整えていくことです。サステナビリティ経営とは、そのための経営であり、それを成功させるためには常に未来を見据え、また現在起きている変化を常に注意深く観察することが必要なのです。

記事サムネイル
サステナブル

食品もエシカルが求められる時代へ【食品企業のためのサステナブル経営(第18回)】

前回の記事を読む:過剰な肥料にご用心【食品企業のためのサステナブル経営(第17回)】最近いろいろなところで「エシカル」という言葉を耳にするようになりました。食品で言えばフェアトレードのチョコレート、有機農業で作られた農作物やそれを原料にした食品、そして地域の作り手を支援するような食品などもエシカルの範疇に入ると言っていいでしょう。本連載で取り上げてきたテーマの多くが、エシカルと関連があるのです。では、「エシカル」は「サステナビリティ」や「環境」とはどう違うのでしょうか? きちんと説明するのは難しいと思う方も多いでしょう。そこで、今回はその「エシカル」について解説したいと思います。食品におけるエシカルな選択とは「エシカル(ethical)」は、「倫理的な」や「道徳的な」という意味の英語です。日本では近年、「エシカル消費」や「エシカルな商品」という形で使われることが増えてきました。そのまま「倫理的な消費」と訳すこともできるのですが、それではちょっと硬いですし、具体的にどう「倫理的」なのかが気になるところです。一般に「エシカル消費」と言ったときには、消費者が商品やサービスを選ぶ際に、その生産過程や使用が環境や社会に与える影響を考慮して選択することを指します。また、そうした消費者の志向に応えて、環境や社会に配慮して作られた商品が「エシカルな商品」です。例えば、自然環境の破壊に結びつかないよう、環境負荷が少ない素材や生産方法とすること、あるいは原料を作る過程(サプライチェーン)を含めて労働者の適正な待遇や人権の尊重(児童労働や強制労働がない、健康や安全に配慮された環境できちんとした給与が支払われている)、またなるべく動物性の素材を使わないようにしたり、使う場合でも動物実験は回避したり、動物の権利を尊重するなどです。このようなエシカルな選択は、Z世代の若い消費者を中心に支持が広がっており、彼らはエシカルな商品を積極的に購入することで、社会的に責任ある行動を示そうとしています。これは日本だけの傾向ではなく、世界的なトレンドであり、むしろ日本が最近になってこの流れに追随している状況です。ある調査によれば、2023年に世界のエシカル食品市場は4500億ドル(約72兆円)に達したそうです。市場は年々拡大しており、2030年には7294億ドル(約117兆円)にまで拡大するといいます。日本ではまだあまり大きくないのですが、この調査では日本でも2030年には6兆円規模に成長すると予測しています。この市場の成長は、日本の食品メーカーにとっても大きなビジネスチャンスです。出典:「消費をのみ込むエシカルの波」(日経ビジネス2023年7月21日)エシカルな商品を作るにはこうした流れに乗るべく、エシカルな商品の競争力を高めるためには、どのような取り組みをしたらいいのでしょうか。本連載で取り上げてきたサステナビリティに関わるテーマ、さらに労働人権や動物福祉などがまさにエシカルに通じるものなのですが、問題は何をどこまですればエシカルと言えるかということです。というのも、一口にエシカルと言っても、実はその範囲は非常に広く、様々なテーマ、課題があるのです。たとえば最近ヴィーガンへの関心が高まっています。健康的だからという理由もありますが、動物福祉を考えてヴィーガンになったという方も少なくありません。まさに「エシカル」が選択の背景にあるのです。では植物性であればなんでも良いのかと言えば、オーガニックである方が好ましいのは言うまでもありませんし、もっと言えば、どこで誰がどのように作ったものなのか、そこまで気にする消費者もいるかもしれません。そしてある特定の部分に対する配慮だけを取り上げて、「うちの商品はエシカルです」とアピールすると、「他の面はどうですか?」と聞かれたり、「この部分もきちんと考えていないのでは、それはウオッシュでは?」とかえって評判を落とすことすらあるのです。ちなみにウオッシュとは、一見配慮しているように見えるけれども、厳密にはそうとは言えなかったり、あるいはわざと誤解を招くようにする行為を指し、近年大きな問題になっています。ですので、できるかぎり全方位的に配慮することが求められる時代になって来ています。とは言っても、すべてのことに同じように取り組むのも難しいので、まずは何についてどこまで取り組めばいいのか、どこから手を付けたらいいのか? そういう疑問も出てくることでしょう。8分野・43項目でエシカルの度合いを点検実は私は、エシカルに関わる様々な分野の専門家や関連組織が集まる日本エシカル推進協議会(JEI)という団体の副会長を務めています。協議会ではこうした疑問に答えるために、私が責任者となり、今から3年近く前にエシカルであるための基準として「JEIエシカル基準」を策定し、公開しました。エシカルであることを目指すために、あるいは謳うためには、こうした事項に関してこのようなレベルの配慮が必要であると、8分野、43項目についてまとめた基準です。それぞれの項目を6レベルに分け、まずはどこから手をつけ、どのように進め、どこまで目指したら良いかが示されています。「JEIエシカル基準を公表いたしました​​」(日本エシカル推進協議会)JEIエシカル基準がカバーする8分野自然環境を守っている人権を尊重している消費者を尊重している動物の福祉・権利を守っている製品・サービスの情報開示をしている事業を行っている地域社会に配慮・貢献している適正な経営を行っているサプライヤーやステークホルダーと積極的に協働している有機農作物などのように、いくつかの課題についてはより厳密な国際基準があり、またそれに合致していることを第三者が審査する国際認証制度もあります。ただし、そうした国際認証を取得するためにはかなりの労力とコストがかかります。特に中小企業の場合、気軽に取り組めるとは言い難いのも事実です。そこで中小企業も含めてすべての企業が取り組むことができるよう、JEIエシカル基準は、自分たちだけで取り組むことができ、また審査などのコストも不要で、無料で自由に使っていただけるものになっています。商品や経営をエシカルにすることは、エシカルな商品を求める消費者にアピールし商品の競争力を高めるだけでなく、そもそもビジネス道徳的に考えても好ましいことですし、また事業そのものをサステナブルにする効果もあります。ぜひJEIエシカル基準をご活用ください。さらに、この基準の内容を推進していくために、より詳しい周辺情報や実際の取り組み事例を知りたいという声もありました。そこでこのたび、この分野に関わる58人の専門家に寄稿をいただき、その名も『エシカルバイブル』(日本エシカル推進協議会編著)という解説書を発行いたしました。私も全体の説明に加えていくつかの項目の解説をしています。これからエシカルな商品の開発や販売を考えている企業には、ぜひ参考にしていただきたいと思います。エシカルな取り組みを促進し、持続可能な会社になるための重要な一歩になるはずです。次回の記事を読む:経済的にもサステナブルにするには【食品企業のためのサステナブル経営(第19回)】

記事サムネイル
サステナブル

過剰な肥料にご用心【食品企業のためのサステナブル経営(第17回)】

前回の記事を読む:どうする、カカオの暴騰?【食品企業のためのサステナブル経営(第16回)】一つ前の回でいま世界が注目する「再生農業」を紹介しましたが、再生農業が従来の農業と大きく異なる点の一つに、肥料を基本的に使わないことが挙げられます。(農業の大革命が進行中!?【食品企業のためのサステナブル経営(第15回)】)これは、土壌生態系が豊かであれば、人間が肥料を追加しなくても必要な養分が土壌に存在するという考え方に基づいています。そして、再生農業は養分が十分に供給されるように土壌を豊かに再生することを目指しているのです。もしこのやり方が機能するとすれば、肥料を施す手間やコストを削減できるため、農家にとっては大きなメリットとなります。しかし、メリットはこれに留まりません。実は、肥料そのものにもいくつか重大な問題があるからです。肥料の問題点から再生農業を考えるそもそも、肥料は非常に大きな環境汚染源であることをご存知でしょうか。生物多様性の喪失が大きな地球環境問題となっていますが、その原因の一つが肥料による環境汚染なのです。環境汚染というと多くの方は化学薬品や農薬を連想すると思いますが、実際には肥料の影響が非常に大きいのです。なぜなら、そもそも農業は全世界で広く行われている人間活動であり、近代的な農業では肥料を与えることが常識化しています。そして、農家は生産性を上げようとして過剰に肥料を使用する傾向があるのです。作物や地域にもよりますが、一般に与えた肥料の半分程度、場合によっては3割ぐらいしか作物は吸収しておらず、残りは環境に放出されていると考えられます。そのため、過剰な肥料が周辺の土壌を、さらには下流地域を栄養化し、生態系を撹乱しているのです。このような環境問題を防ぐために、肥料を使わない再生農業は大きな利点を持つと言えます。環境だけでなく影響は人の健康にも過剰な肥料の問題はそれにとどまりません。人間の健康にも悪影響を与えています。肥料の主要成分は硝酸態窒素で、これは葉緑素をはじめとするタンパク質の原料として植物にとって重要です。しかし、植物が体内で使いきれなかった過剰の硝酸態窒素は、そのまま人間が摂取することになります。体内に入った硝酸態窒素の大部分は尿から排泄されるのですが、消化器官の中で微生物により還元され、亜硝酸態窒素となるものもあります。これが消化器官内で化学反応により発がん性が示唆されているニトロソアミンを作る可能性があるのです。つまり、硝酸態窒素が過剰な作物を摂取することは、人間の健康被害につながる恐れもあるのです。さらに亜硝酸態窒素が血液中のヘモグロビンと反応すると、酸素を運搬する機能のない血色素であるメトヘモグロビンを生成させてしまいます。乳幼児は胃酸の分泌が少ないため、特に​亜硝酸態窒素を生じやすく、この現象が発生しやすいとされます。メトヘモグロビンの濃度が高くなるとチアノーゼを起こし、さらには呼吸困難・意識障害などの症状を出現させ、最悪の場合死亡することもあります。乳幼児でこの問題が起きやすく、起きると全身が真っ青になることから、ブルーベイビー症候群と呼ばれて海外では恐れられています。農業による環境汚染の規制、日本ではこの問題は1945年にアメリカの農場で最初に報告されていますが、その後1970年代に欧州で大きな問題となり、農薬や家畜の飼育による土壌や水質の硝酸態窒素による汚染を防ぐための規制が導入されました。実は、これがGAP(Good Agriculture Practice)のきっかけです。GAPは欧州への農作物輸出の品質基準と認識されている方も多いと思いますが、実際には農業による環境汚染を防ぐための規制から始まったのです。また、EUでは葉物野菜について、残留硝酸態窒素濃度の基準値も定められており、これを超えたものは出荷できません。日本ではこの問題があまり顕在化しなかったため、一般にはあまり問題として認識されていません。そのために野菜の残留硝酸態窒素の基準も設けられていません。ところが実際に測定してみると、EUの基準より数倍、場合によっては桁違いに多い硝酸態窒素が検出されることも少なくないようです。日本でも水道水に対してはWHOのガイドラインと同じ10 mg/Lという基準が定められており、これはEUよりも厳しいのですが、井戸水や地下水にはそれ以上の硝酸態窒素が含まれていることがあるのでやはり注意が必要です。こうしたことは、最近になって日本の野菜を海外に輸出しようとしたときに問題になったのですが、もちろん問題の本質は輸出ができないということではありません。なにより日本人の健康にとって、大きな問題なのです。この問題を防ぐためには肥料の適正使用が重要ですが、再生農業のようにそもそも肥料を使わなくてすむのであれば、こうした問題も同時に解決することができるのです。農業生産と食品製造の課題は共に肥料に関わる問題は、直接的には農家にとっての課題であり、農家が中心になって取り組む必要があります。しかし、肥料を使わない、少なくとも使用量を減らして適正に使う農業が広がれば、農作物の品質が向上するだけでなく、生産コストも削減され、食品企業としても大きなメリットがあります。特にウクライナ危機以降、窒素肥料の価格が高騰し、日本だけでなく世界的な農作物の価格上昇の一因となっています。こうした状況を考えると、今は肥料の過剰利用を再考するにはとても良いタイミングと言えるかもしれません。そしてもちろん、これを単に農家の問題として捉えるべきではなく、食品メーカーが生産者と一緒にこの問題の解決に取り組むことに非常に意義があります。これは、日本の農業と食品をいろいろな意味でサステナブルにする絶好の機会なのです。次回の記事を読む:食品もエシカルが求められる時代へ【食品企業のためのサステナブル経営(第18回)】

記事サムネイル
サステナブル

どうする、カカオの暴騰?【食品企業のためのサステナブル経営(第16回)】

前回の記事を読む:農業の大革命が進行中!?【食品企業のためのサステナブル経営(第15回)】カカオ豆の価格が急騰しています。3ヶ月で2倍、1年間で3倍になるというペースに驚いている、いえ、慌てている方も多いと思います。国際市場での価格も、4月に史上初の1トン1万ドルを突破しました。日本円に換算すれば160万円です。日本での価格がさらに高く感じられるのもむべなるかなです。原因は主な生産地である西アフリカにおける気候不順と病気の発生で、収穫量が40%も減少していることです。しかし、実際に輸入されるカカオ豆の価格にこの市場価格が反映されるのはまだこれからです。そして、今後もカカオ豆の価格がますます上がることはあっても、元の価格に戻ることはほぼないでしょう。なぜなら気候変動の影響は今後ますます大きくなりますし、病気や老朽化した木の植え替えには数年を要します。さらに新興国の市場の成長もあり、世界的にカカオ需要が増加しているのです。価格を押し上げる要因は多く存在しますが、下げる要因はほとんど見当たりません。もちろん農産物ですから、価格の多少の上下はあるでしょう。しかし、円安トレンドも今後継続するであろうことを考えれば、以前のような価格に戻ることはまずないと結論せざるを得ないのです。「カカオショック」本質的な対応策は?このような状況下では、ただ値上げを繰り返しても意味はありません。本質的な対策にならないだけではなく、顧客や市場を失うことになるのがオチです。ではどうするかですが、一つはビジネスを根本的に見直すことでしょう。誰に、何を、どのような価格で売るかということを、根本から設計し直す必要がありそうです。非常に重要なことですが、会社ごとに答えは変わってきますので、ここではこれ以上は立ち入らないことにします。もう一つ重要なのは、カカオ豆をどう安定的に調達できるようにするかです。これまでのように、ただ市場から購入したり、商社頼みで調達するのでは不十分であることは明らかです。実際、海外の大手ブランドは、すでにかなり以前からサプライチェーンに深く関与し、栽培方法の改善や労働環境の向上を図りながら、生産の効率化を進めています。いわゆる「持続可能な調達」が行えるよう、準備を進めてきたのです。そうしたブランドからすれば、現在のカカオショックは来るべきものが来たのに過ぎないでしょうし、むしろライバルを引き離すチャンスの到来だと思っているかもしれません。なぜ海外の有名ブランドがそのような準備を進めてきたかと言えば、気候変動の進行でカカオ豆が大きな影響を受けるであろうことは以前から分かっていたからです。気候変動は気温の上昇だけでなく、降水量の低下、降雨タイミングの変化など、作物の生育に大きな影響を与えますし、病気や病害虫の発生リスクが高まることもあります。こうしたことに予め備えておかなければ、いざ問題が発生したときに農家は大変な被害を受けることになります。しかし、農家にはそのような知識も対策を講じる経済的な余裕もありません。事前に準備をするためには、企業が支援をする必要があるのです。必要なのは農家の支援と投資そもそも、栽培方法が適切でなければ品質や生産性が良くないという問題もあります。また、カカオの木が古くなれば生産性は落ちていきますが、植え替えるためには大きな投資が必要であり、低収入の農家だけでは難しいのです。こうした農家に対して低利子の融資やマイクロファイナンスなどの金融支援を行うことは、安定的な調達につながり、結局は自分たちにもメリットがあるのです。もちろん日頃から適切な価格で買い上げることや長期契約を行うことも、農家の経営安定やモチベーション維持のために役立ちます。海外の大手ブランドであっても、環境や人権への配慮をNGOなどから求められて渋々始めたところも少なくありません。けれど、やがてその効果に気がついたり、将来的に起きるかもしれないリスク対策としても役立つことに気がついたり… 理由や経緯は様々ですが、今は農家支援を積極的に行い、農家の生活を安定させながら、自社のビジネスを長期的に安定化させることに成功しているのです。一方で日本企業は、これまで商社任せでそうした努力を怠ってきたので、今そのツケを払わされていると言っていいでしょう。けれども、サプライチェーンを遡って農家を支援することは、安定的な調達のためには今や必要不可欠です。商社を含めて日本企業も、めんどうがらずに今からでも取り組みを始めなくてはなりません。そうしなければ、今後の価格高騰や不安定な供給に翻弄されることになってしまいます。幸いなことは、農家を支援する方法やそのサポート体制は既に整っているということです。必要なのは、やると決定し、投資することだけです。コーヒー、バニラ、オリーブオイル…原料高騰は他にももう一つ重要なことは、この問題はカカオ豆に限ったものではないということです。コーヒー、バニラ、オリーブオイルなど、他の原材料、特に熱帯産の原材料で同じ課題が存在しますし、今後、同様の影響を受ける農産物はどんどんと増えていくでしょう。食品メーカーたるもの、生産地やサプライチェーンに十分な注意を払うことが必要です。具体的に言えば、これまでは品質の良い原料を使っておいしいものをリーズナブルな価格で提供すれば良かったのですが、今後は高品質な原料を安定的に調達することと、高騰する原材料を使っても利益を出せるようにビジネスモデルや経営を変革することが求められているのです。まさに持続可能な経営が求められていると言っていいでしょう。次回の記事を読む:過剰な肥料にご用心【食品企業のためのサステナブル経営(第17回)】

記事サムネイル
サステナブル

コーヒーの粉の再利用方法8選、効果と乾燥方法も解説

ドリップコーヒーを作った後に残る粉を新たな方法で活用できないかと考えていませんか。抽出後の粉を乾燥させれば、さまざまな方法で活用できます。知ると驚く意外な効果もあるため、特徴を活かした活用方法をチェックしてみましょう。この記事では、コーヒーの粉の再利用方法8選を紹介します。再利用前の下準備と、コーヒーかすが持つ効果も解説するので、ぜひ参考にしてみてください。コーヒーの出がらしは再利用できる!コーヒーかすが持つ効果ドリップコーヒーの抽出後に残る粉は一般的に捨てられることが多いですが、コーヒーの粉には優れた効果があり、さまざまなシーンで再利用できます。ここでは、コーヒーの粉が持つ3つの効果を解説しましょう。消臭効果|活性炭の5倍抽出後のコーヒーの粉には無数の穴があいていて、嫌な臭いを吸収します。不快臭の代表であるアンモニア臭も、コーヒーの粉を使えば消臭できます。粉にある無数の穴がアンモニアを捕まえ、粉内部の水分がにおいを溶解することで、抜群の消臭効果を発揮します。抽出後の水分を含むコーヒーの粉は、活性炭の約5倍の消臭効果があるとされています。おむつのごみ箱やトイレなどで活用できるでしょう。害虫駆除効果|虫がわくときにおすすめコーヒーに含まれるカフェインや強い香りを利用して、害虫駆除を行うことも可能です。すべての虫に効果が期待できるわけではありませんが、カフェインや強い香りが苦手な虫を追い払えます。効果が期待できる虫は以下の通りです。アリ蚊ネキリムシヨトウムシネコブセンチュウネキリムシやヨトウムシ、ネコブセンチュウ畑などでよく見かける虫です。野菜の成長を妨げる虫なので、菜園に虫が発生している場合は、コーヒーの粉を使って駆除することがおすすめです。土壌改良効果コーヒーの粉には、土壌を整えて作物を育てやすくする堆肥効果が期待できます。野菜や植物を育てているものの、なかなか上手に育たないとお悩みの方もいるでしょう。その理由は、土壌が整っていないからかもしれません。堆肥効果のある資材を使うことで、土壌が肥え、作物も育ちやすくなります。資材がなくても、コーヒーの粉があれば土壌を整えることができます。コーヒーの粉を乾燥させる3つの方法堆肥や虫除けに使う場合は、事前に乾燥させることが大切です。抽出後の粉をどうやって乾燥させればいいのか、ここで3つの方法を解説します。1.電子レンジで加熱する素早く、手間なく乾燥させたい方におすすめなのが電子レンジです。お皿にコーヒーの粉をのせて加熱するだけなので、時間がない方にもおすすめです。加熱時間の目安は、ドリップ2杯分に対し、600Wで3~4分です。乾燥させる量や電子レンジの機種に応じて加熱時間を変えましょう。2.フライパンで煎るフライパンや鍋でコーヒーの粉を煎ることで、簡単に乾燥させられます。焼くのではなく煎って作るので、火にかけた後はコーヒーの粉をこまめに動かさなければなりません。弱火でじっくり煎ることで粉の水分が抜けていきます。全体の水分が抜け、乾燥した状態になれば完成です。3.天日干しする新聞紙などに抽出後のコーヒーの粉を乗せて、日当たりのいいところに長時間置いておく方法もあります。天日干しをしている間は、2~3回ほど全体を混ぜましょう。混ぜ合わせることで、粉全体がまんべんなく乾燥します。季節や気温、天候にもよりますが、3つの方法の中でも特に時間がかかるため、時間に余裕がある方におすすめです。コーヒー豆抽出後の再利用方法8選抽出後のコーヒーの粉はいろいろな方法で活用できます。ここでは、コーヒーの粉の再利用方法を8つ紹介します。1.肥料・堆肥乾燥させたコーヒーの粉で土壌を整えたり、ほかの材料を混ぜ合わせて肥料を作ったりすることができます。乾燥させたコーヒーの粉を撒けば、土壌が整い、野菜も育ちやすくなるでしょう。乾燥させたコーヒーの粉を腐葉土と混ぜて発酵させれば、肥料が出来上がります。容器の中に2つを混ぜ入れ、毎日混ぜて発酵具合を確認しましょう。触れたときにほのかに温かければ、発酵が進んでいると判断できます。2.除草コーヒーに含まれるカフェインの効果を利用すれば、除草剤として活用できます。カフェインには植物の成長を妨げる効果があるとされているので、雑草が生える部分に撒いておきましょう。植物や野菜を育てている部分に撒くと逆効果になるため、撒く場所に注意が必要です。3.虫除けと猫除け一部の虫や猫は、コーヒーに含まれるカフェインや強い香りが苦手なため、虫除けや猫除けに使うこともおすすめです。虫対策は建物周辺に、猫対策には家の外壁や生け垣に撒くことで、侵入を防げます。4.消臭・脱臭剤乾燥させたコーヒーの粉を布や紙で包んだり、穴の開いた容器に入れたりすることで、消臭剤・脱臭剤として活用できます。消臭・脱臭目的で使う際は、必ず乾燥させたコーヒーの粉を使うようにしましょう。抽出後の粉をそのまま使うと、カビが生える恐れがあるため、逆効果になります。5.入浴剤コーヒーの粉をさらし袋に入れて、入浴剤にすることも可能です。さらし袋とは、納骨の際に使われる薄手の袋です。コーヒーの粉を入れてお湯に浮かべると、浴室がいい香りで満たされるため、リラックス効果を得られるでしょう。6.洗剤の代用コーヒーの粉は粒子が細かく、吸着力に優れているため、汚れ落としにも効果的です。食器や調理器具の汚れはもちろん、頑固な油汚れもコーヒーの粉をつければきれいに落とせます。また、コーヒーの粉は研磨剤としても使えるので、キッチンや洗面所、浴室の鏡に付着した水垢落としにも活用できます。粉はそのままだと使いにくいため、ティーバッグに入れてこすることがおすすめです。7.靴・金属磨きコーヒーの粉に含まれる油分は、靴や金属のツヤを出してくれます。薄手の布に包んだり、手袋に入れて磨いたりすることでツヤが出て、ワックスをかけたような仕上がりになります。ただし、コーヒーの粉には研磨剤としての効果もあるため、強く磨かないよう注意しましょう。8.染料・塗料抽出後のコーヒーの粉を煮出した液を使えば、服や小物をヴィンテージ風にアレンジできます。コーヒーの粉で染めると淡い茶色に代わるため、色合いに飽きてしまった服や小物の雰囲気を大きく変えられるでしょう。また、煮出した液は塗料としても使えます。家具に塗れば印象が変化するため、部屋全体の雰囲気を変えられるでしょう。コーヒーの粉の再利用で寄せられる質問コーヒーの粉の再利用を考えているけれど、「問題なく利用できるのか心配」という方もいるでしょう。ここでは、コーヒーの粉の再利用でよく寄せられる質問を紹介します。粉をそのまま撒いてしまった場合コーヒーの粉を乾燥させずにそのまま撒いてしまった場合は、早めに回収することが大切です。湿った状態のコーヒーの粉を撒くと、時期によってはカビが発生します。また、コーヒーの香りを苦手としない虫が集まってくる可能性もあるため、注意が必要です。乾燥させたコーヒーの粉なら、カビが生えるリスクや虫が集まってくる恐れがないため、安心して使えます。コーヒーの粉にゴキブリが寄ってこないためにコーヒー抽出後の粉をそのままにしておくとゴキブリが寄ってくるため、早めに捨てるようにしましょう。抽出後のコーヒーの粉は生ごみと同じなので、生ごみを好むゴキブリが寄ってきやすくなります。ゴキブリはコーヒーの強い香りを苦手としないため、早めに処置することが大切です。まとめドリップコーヒーの粉は、抽出後に再利用することが可能です。土壌の改良・消臭や脱臭、虫除け、洗剤の代用など、さまざまな方法で活用できます。抽出後の粉をそのまま使うとカビや虫が寄ってくる原因になるため、乾燥させてから再利用することがおすすめです。使い道がなく捨てていたものも、工夫次第で再利用できます。コーヒーの粉には複数の効果があるため、アイデア次第でさらに活用シーンを広げられるでしょう。

記事サムネイル
サステナブル

農業の大革命が進行中!?【食品企業のためのサステナブル経営(第15回)】

前回の記事を読む:日本でも有機食品が増えつつある理由とは?【食品企業のためのサステナブル経営(第14回)】多くの食品原料は農業に依存しています。そして前回は、有機農業がこれまでの農業のやり方、いわゆる慣行農業に比べて環境負荷が低く、農水省も「みどりの食料システム戦略」の中で有機農業を2050年には25%(面積ベース)にまで拡大していこうと計画していることなどをお話ししました。また、健康のために有機農業に関心をもつ消費者も着実に増えています。しかし同時に、有機農作物は一般に価格が高く、供給も安定していないことから、使用する側としては一工夫必要です。また農家にとっても、有機農業は手間がかかる、面倒だという印象があるように思います。そして有機農業に切り替えることで農業に関わるすべての環境問題が解決するわけではありません。では、結局どうしたらいいのか? 慣行農業と有機農業の程よいバランスを見つけるしかないのでしょうか…。日本では多くの関係者が長らくそんな悩みを抱えていたと思うのですが、実は有機農業をはるかに凌ぐとても素晴らしい農法があり、それがいま世界では大注目を浴びているのです。それが再生農業(regenerative agriculture)です。日本ではまだ聞き慣れないと思いますが、この10年ぐらいの間に北米や欧州などで急成長し、今や穀物メジャーや有名食品企業がこぞって移行を始めています。再生農業(Regenerative Agriculture)の可能性まず、なぜ再生農業なのか、何を再生するのかというと、農業をしながら土壌、より正確に言うと土壌生態系を再生する(regenerate)のです。これまでの集約的な農業は土壌を疲弊させてしまうという問題がありましたが、この農法を使うことにより土壌生態系は再生され、その結果、収量も上がるというのです。具体的にどうするのかと言うと、一番基本になるのは不耕起、つまり土を耕さないことです。そして農薬はもちろん、肥料も基本的には使いません。化学肥料だけでなく、有機肥料も使わないのです。その代わりにいろいろな作物を同時に植えたり(間作)、またある作物を育てて収穫したら、同じところに今度は別の作物を育てる、つまり裏作を行い、一年中常に作物を育てるということが特徴です。肥料を使わずに作物が育つのかと疑問に思われるかもしれませんが、昔は田んぼを作る前にレンゲを植えていたことを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。マメ科のレンゲの根には根粒菌という細菌が共生しています。根粒菌は空気中の窒素(無機体)を植物が使える有機体に変える能力があり、レンゲに窒素分を供給してくれるのです。したがって、レンゲは肥料を与えなくてもよく育つのですが、農家は春になるとそのレンゲそのものを土にすき混み、イネの緑肥として使うのです。こうしてレンゲを育てる手間を加えることで、昔の人は窒素肥料があまりなくても、イネを育てることができたのです。こうした緑肥としてはマメ科植物が有名ですが、最近の研究で、実は多くの植物が土壌中の菌類と相互作用を持ち、お互いに支えていることがわかって来ました。植物は光合成で作った糖などを毛根から滲出し、細菌はこれをエネルギー源に活動し、窒素や微量元素などを植物に与えます。そのような共生関係でお互いを支えているようなのです。だから自然の生態系では、施肥をしなくても立派な森林が育つというわけです。そして複数の作物を育てることで、それぞれの作物と共生する微生物が異なることから、それらが相補的に機能し、様々な栄養素が供給され、肥料を使わなくても作物が十分に育つというのです。ところがこれまでの農業では土を耕すので、土壌中の菌類や細菌、そのつながりを乱してしまい、微生物が供給する栄養が不足し、肥料が必要となっていたというのです。これは、日本では自然農法と言われているものとほぼ同じ考え方です。畑由来のCO2を抑制、土壌水分や収量は増加あまりにうまい話でにわかには信じがたいかもしれませんが、実際に多くの国で成果を挙げており、それが故に、再生農業へ切り替える農家や食品会社が急速に増えているのです。実は再生農業が食品会社等に最初に着目されたのは、畑から発生する二酸化炭素の量が3割程度減少するからでした。企業はサプライチェーン全体で温室効果ガスの発生を減らすことが求められていますが、食品会社の場合には畑での発生量が圧倒的に多いために、それを減らすことは原理的に非常に難しいとこれまでは考えられていました。ところが再生農業ならば二酸化炭素の発生量が減らせるということで、多くの企業がこれに飛びついたのです。ところが実際に行ってみると、効果はそれに止まらないことがわかったのです。大気中への二酸化炭素の放出量は最大3割、少なくとも1割は減らせるのですが、その炭素は土壌中に有機炭素として貯留されます。同時に、土壌中に貯留される水分も増え、生産量は小麦で22.9%、トウモロコシで23.4%、コメに至っては41.9%も増えるというのです。(参考資料:“Common ground: restoring land health for sustainable agriculture”, IUCN (2020))世界で大注目の再生農業、日本での広がりに期待そして農薬も肥料も不要、毎春の耕起作業も不要になりますので、コストは大幅に減ります。収量が増えますので、既にこれらだけでかなりの収入増ですが、それに加えて間作や裏作の作物からの収穫もあります。収入は増えて支出は減り、トータルの純利益は大幅に増えるというわけです。では、農作業が増えるのではないか、大変になるのではないかと思われるかもしれませんが、これもむしろ少なくなるといいます。耕起はしませんし、間作のおかげで雑草は生えず、過剰な施肥もしないので害虫も発生しないのです。あまりにも良いことずくめで思わず眉に唾をつけたくなるほどですが、これがまさに再生農業がいま世界的に注目され、大ブームになりつつある理由なのです。不思議なことに日本では今まであまり知られていなかったのですが、最近はようやく興味を持つ食品会社も出てきました。また先に述べたように、「自然農」という呼び方では知られていましたが、非常に特殊な農法と捉えられており、あまり大きな広がりにはなっていません。もちろん日本で再生農業を行うためには、日本の気候風土や食習慣を考えて少しアレンジや調整が必要になるでしょうが、私はきっと近い将来、日本でも一気に広がるものと期待しています。そしてこの再生農業が、農業の常識と歴史を書き換えることになるのではないかとも予想しています。もしかすると私たちは、農業の大革命の目撃者になるのかもしれません。次回の記事を読む:どうする、カカオの暴騰?【食品企業のためのサステナブル経営(第16回)】