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急伸する「フードテック」を知ろう(前編)~社会問題の解決を目指すフードテック~

「フードテック」という言葉を聞いたことがありますか?

フードテックは食×テクノロジー(技術)を意味し、食品関連分野にサイエンスやITを導入することにより更なる食の可能性を探る動きを指します。生きていく上での根幹ともいえる「食」は農業漁業から、食品製造、流通・保存、調理、配送など様々な分野にまたがります。関連したお仕事をしている方も多いでしょうし、末端の消費者として考えれば、フードテックによる新サービスや新ビジネスはまさに私たち一人ひとりの生活に直結しているわけです。
とはいっても、「フードテック」という言葉だけでは具体的なイメージは湧きにくいかもしれませんね。まずは社会問題の解決という視点から、フードテックを探ります。
食糧問題の解決を目指すフードテック

フードテックの目指す一つの行き先は食品ロスや将来のたんぱく源不足の解消といった食糧問題の解決です。食品ロスの問題は大変深刻です。国連食糧農業機関(FAO)によれば、食糧廃棄量は世界中では年間約13トン。これは人の消費のために生産された食料のおよそ1/3にも上るといいます。
ITを活用することで需要と供給をより精緻に予測することができれば、家庭に届く前までの食品ロスが減少すると考えられます。家庭に届いたあと、さらに最新技術により品質を保持できる保存期間が延長され、誰でも簡単においしく調理できる自動調理などが実現すれば、家庭内での食品ロスも減っていくでしょう。食品パッケージが変わってくれば、プラスチックごみの減少へもつながるでしょうし、流通のロスが少なくなればその分の輸送量が減り、排出CO2も削減できるなど、影響は計り知れません。たんぱく源不足も大きな食糧問題ですが、代替肉や培養肉の分野が解決の糸口となる可能性を秘めています。さらにはたんぱく源不足だけではなく、貧困層の栄養不良による健康問題、それとは逆の富裕層の食べすぎによる健康被害といった問題に対応できる代替肉や培養肉は、今後ますます注目されていくことでしょう。
人手不足をテクノロジーが解決する?

日本の人口は10年連続で減少し続けています。少子高齢化の流れは今後も加速の一途をたどりそうです。この労働力人口の減少をテクノロジーによって解決できるのでしょうか。
実は、その可能性は十分にあります。ドローンを活用した農薬散布、AIによる自動灌漑、食品工場でのロボット化などはすでに実現していますし、畑ではなく工場で野菜を生産することも今後ますます増えていくでしょう。さらには小売り・飲食業界でも調理や接客をロボットが行うことも当たり前の時代がやってくるかもしれません。あるいは小売という業態が変化していく可能性もあります。一昔前は、どのようなものでも出かけて行って店舗で買うのが一般的でしたが、現在の通信販売の躍進は皆さんご存じのところです。今後この流れがますます加速し、もしかしたら普段食べる生鮮食品についてもオンラインで購入し届けてもらう形が普及していくのかもしれません。
近い将来の購買形態がどうなるかは未知数ですが、フードテックがさまざまな可能性に満ちていることは確かです。
今回の記事のまとめ

以上のように、フードテックは社会問題の解決を目指して急伸してきています。しかしそれだけではフードテック全体をとらえたとは言えません。もう一つ別のアプローチとして、フードテックは食の多様化を目指しています。次回後編ではこの食の多様化、パーソナライズ化されたニーズを満たすフードテックについてお伝えします。
後編はこちら
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サステナブル

天然水産物を持続可能に利用するには?(後編)【食品企業のためのサステナブル経営(第12回)】

前回の記事を読む:天然水産物を持続可能に利用するには?(前編)【食品企業のためのサステナブル経営(第11回)】ここでは世界的に広く普及しているこのMSC認証を例に、天然水産物を漁獲する漁業に関する認証について説明したいと思います。MSC認証には、漁業が持続可能な形で行われていることを認証する「MSC漁業認証」と、認証を取得した漁業で獲られたものがそうでない水産物と混じらずに管理されていることを認証するMSC CoC認証(※)がありますが、今回は漁業そのものにまつわる課題をまず説明したいので、漁業認証についてのみ紹介します。※CoCはChain of Custodyの略。水産物の水揚げ以降のサプライチェーンに対する加工・流通の管理認証。MSC漁業認証を取得した漁業で獲られた水産物をMSC認証のものとして取り扱うためには、MSC CoC認証が必要となります。持続可能な漁業のための3つの原則MSC漁業認証は、持続可能な漁業となるために3つの原則からなる要求事項を規定しています。3つの原則は以下の通りです。(出典:MSC)資源の持続可能性漁業が生態系に与える影響漁業の管理システム原則1は言わずもがなですが、過剰な漁獲を行わず、資源を枯渇させないようにしていることを意味します。資源量を把握し、資源を減らさない範囲で漁獲するということです。そして原則2は、対象となる魚種だけでなく、その漁業を行ったり、また漁業が依存する生態系を持続する形で漁業を行うことを意味しています。例えば、対象魚種以外を漁獲してしまう「混獲」と言われる問題があります。混獲と言うと、対象魚種以外のものが若干混じって獲れてしまうような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には、対象魚種以外の方がはるかに多く獲られ、しかもそれが利用されずに廃棄されるようなことも多く起きています。これではたとえ対象魚種の資源量は維持できたとしても、生態系が損なわれてしまうことは容易に想像できるでしょう。そしてそれが結果的に対象魚種にも(悪)影響を与えるかもしれません。同様に、漁業によって海の環境を悪化させるようなことも、もちろんあってはいけません。そして最後に原則3ですが、原則1と2を満たすために、地域や国、あるいは国際的なルールを尊重した管理システムを持つことを求めています。きちんとした管理体制があることが重要なのです。世界の水産資源を守るための「現実解」日本では長らく、資源管理は地域に任されて来ました。1996年以降、少しずつ国が水産資源管理制度を整えるようになってきていますが、それでも欧州や北米などの地域に比べて、まだまだ不十分な部分が少なくありません。制度ととしては存在していても、科学よりもこれまでの慣習などを優先している場合もあり、十分に機能していない場合もあります。さらに、世界の海の61%(面積ベース)を占める公海について言えば、各種の条約が資源管理を定めるようになって来ているものの、こちらもまだ十分とは言えない状況です。ですので、MSC認証のような制度を自主的に利用し、関係者全員で地域の、そして世界の水産資源を保全し、公平かつ持続的な形で利用することが重要なのです。そして実際、水産資源管理がしっかりと行われ、MSC認証のような制度が普及している国々や地域では、水産資源量が維持され、漁獲高も高く、水産業は儲かる産業で若者にも人気があるという好循環ができています。食品会社は認証水産物を優先的に調達することで、水産資源管理が促進され、水産資源量を維持・拡大することに間接的に貢献することができます。なお水産業においては、漁業現場における労働安全衛生や人権の問題も近年非常に注目されています。MSC認証にも強制労働や児童労働に関する要求事項はありますが、今のところこうした課題すべてを包括的にカバーする認証制度はありませんので、いくつかの制度を組み合わせたり、自主的に調達基準を設けてサプライヤーと協働するなどの取り組みが必要です。もちろんこうした取り組みも、水産業を持続可能にすることに貢献することになりますし、その結果、食品産業そのものを持続可能にすることにもなるでしょう。このようにまだまだいろいろな課題があるのですが、今回のまとめとしては、天然水産物の場合には、資源量に余裕があるものを使うことが重要だということです。けれども、どの魚が資源量に余裕があるかは判断しにくいと思いますので、そのためには資源量に配慮した持続可能な漁業で獲られたMSC認証水産物などを材料として使うということが現実的な解になります。国際的にチェーン展開するホテルやレストランなどでは、調達の条件としてMSC認証水産物であることを指定するところも既に現れています。認証水産物を取り扱っていることが取引条件になる時代もすぐそこまで迫っていると言っていいでしょう。いきなり全面的とは言いませんが、まずはそうした材料を少しでも探して、使ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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サステナブル

天然水産物を持続可能に利用するには?(前編)【食品企業のためのサステナブル経営(第11回)】

前回は水産養殖にまつわる様々な問題点について、そしてそうした問題がない持続可能な養殖水産物を見分けて利用する方法として、養殖認証を活用することをお話ししました。こうした認証マークがある原料や商品を買えば、養殖に起因する様々な環境や社会問題を回避することができるので、安心であり、また食品産業の持続可能性を担保するためにも役立つのです。それでは天然水産物の場合はどうしたら良いのでしょうか? 天然水産物には養殖水産物とは異なる問題が多々あります。特に気をつけなければいけないのが、資源量が毎年減っている問題です。連載第9回(これで問題解決?!ウナギの完全養殖)で紹介したように世界の漁獲高は成長を続けているのですが、天然水産物のそれは1980年代後半からはほとんど成長していません。もうそれ以上は獲れなくなってしまったので、それを養殖水産物が補っているのです。減り続ける天然水産物、影響は日本にも国連食糧農業機関(FAO)のデータで世界の天然水産資源の状態を見てみると、50年前には世界の水産資源の約4割にまだ余裕がありました。そして当時でも5割は資源量の上限まで獲られており、それ以上に獲っている、つまりいわゆる乱獲状態にあるものも1割程度ありました。ところが近年では乱獲状態が3割以上、資源量の限界まで利用しているものが約6割、余裕があるものは1割近くにまで減ってしまっているのです。このままこの傾向が続けば、資原量に余裕がある魚種はなくなり、多くのものが乱獲状態になってしまうでしょう。天然水産物の捕獲が増えないのは当然ですし、今後さらに減ってしまってもおかしくありません。図:”The State of World Fisheries and Aquaculture 2022” (FAO, 2022)日本近海においても、連載第9回で取り上げたウナギはもちろん、サンマ、スルメイカ、サケ、スケトウダラ、マイワシなど、様々な魚が獲れなくなって来ています。いろいろな産地があるので、店頭にまったく並ばなくなるということはまだ起きていませんが、以前よりも見かけることが少なくなったり、価格が高騰していることには、きっと多くの方がお気づきでしょう。獲り過ぎを防ぐための管理の必要性漁獲量がこのように急激に減ってしまった理由はいくつか考えられます。気候危機によって水温が上昇した、海流のコースが変わった、ということもしばしば指摘されます。沿岸の開発や汚染で魚、特に稚魚のすみかがなくなったということもあるでしょう。また、世界的に需要が伸び、他国の漁船が同じ漁場で魚を獲るようになったということを挙げる方もいます。しかし、なんと言っても最大の理由は獲り過ぎです。もちろん私たちは太古の昔から魚を獲って食べて来ました。特に日本は世界でも有数の水産国でした。日本のまわりの海は豊かで、長い間、資源量は十分にあったのです。そもそも魚は大変多くの卵を生みますので、人間がある程度捕獲しても、資源量を回復しやすいという性質があります。理論的には、人間が資源を利用した方が、一定期間内の生産量は大きくなるとも考えられています。とは言え、限界を超えて捕獲してしまうと、資源量はもはや回復できなくなってしまいます。漁獲技術が進化し、支えるべき人口も増えた現在、漁獲量がその限界を超えつつあるのです。これまでと同じようなやり方で漁業を続けていることはもうできないと考える必要があります。そこで必要とされるのが、科学に基づく持続可能な水産資源管理です。そして、そのような水産資源管理を行なった漁業を行なっているかどうかを審査する認証制度や、それに基づく認証ラベルも存在しています。実は前回取り上げた養殖に関する認証よりも、漁業に関する認証制度の方が先に開発されています。代表的なものがMSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)によるMSC認証で、認証を取得した漁業で獲られた天然の水産物にはMSC「海のエコラベル」が付けられます。こうした認証制度を活用することが、天然水産物においても持続可能な利用につながるのです。詳細については次回お話ししたいと思います。次回の記事を読む:天然水産物を持続可能に利用するには?(後編)【食品企業のためのサステナブル経営(第12回)】

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サステナブル

持続可能な養殖水産物を使用する【食品企業のためのサステナブル経営(第10回)】

前回の記事を読む:これで問題解決?!ウナギの完全養殖【食品企業のためのサステナブル経営(第9回)】前回は、「養殖であれば安心というわけではない」ということをお伝えしました。一方で、天然水産物の資源量は頭打ちの中、養殖水産物の重要性と存在感はますます高まっています。どうしたら養殖水産物を持続可能にできるのでしょうか?まず大切なことは、「養殖が悪い=持続不可能である」ということではないということです。問題なのは養殖の仕方であって、養殖がすべて否定されるわけではありません。では逆に、養殖にはどんな問題があるかをまず考えてみましょう。その問題をクリアすれば、環境や社会に配慮した養殖ができるからです。持続可能な養殖へ、まずは問題点を知るまず最初の問題として、地域の生物多様性や生態系に悪影響を与えてしまうリスクがあります。たとえば日本に輸入されるエビの多くはタイやベトナムなどの熱帯域で養殖されていて、その養殖池はマングローブ林を破壊して作られることも少なくありません。海と陸の接点に成立するマングローブ林は、エビやカニだけでなく、魚の産卵や子育ての場所として、また津波や高潮などから海岸沿いの街や暮らしを守るために、重要な役割を果たしています。そうした大切な生態系やそこに棲む生物種が失われることは、大変深刻な問題です。次に餌の問題があります。海藻やホタテのように人間が餌をやる必要がないタイプの養殖もありますが、魚やエビの養殖のためには人工的な給餌が必要です。サーモンであれば、体重を1kg増やすために1.2kgの餌で済みます。つまり、魚の体重の1.2倍の重量の餌があれば良いのです。ところが、マダイですとその割合は3倍、ヒラメは4倍、ハマチは6倍、マグロに至ってはなんと15倍と言われます。これは牛肉1kg生産するのに11kgの穀物が必要という数字と比べてもけっして少なくありません。この割合を増肉係数と呼びますが、増肉係数の高い魚種は、コストが高いだけでなく、環境負荷も高いのです。さらに問題なのは、何を餌にするかです。かつてはイワシやサバなどの多く獲れる魚をそのまま餌にしていました。もちろんこれは乱獲につながり、餌の持続可能性が懸念されます。さらには、生餌は食べ残しが養殖場や周辺の水質を汚染(富栄養化)するという問題もあります。最近は栄養成分を考え、また食べ残しがないように設計された固形や半固形の餌が増えていますが、これらについても製造プロセス全体を通じての環境負荷に注意する必要があります。汚染という意味では、食べ残しだけでなく、魚の排泄物による汚染にも十分な注意が必要です。養殖は育てる魚の密度が非常に高くなるので、たとえそれが有機物であっても分解が間に合わず、周囲の生態系に悪影響を与えることがあるのです。また高密度な養殖では病気が発生しやすくなるのでそれを治療したり予防するための抗生物質やワクチンが多用されがちです。こうした化学物質による水質汚染も問題です。そして長期的には、これらが養殖場の底に堆積してしまうのです。エビなど閉じた池の中で養殖する場合には、堆積物による汚染は養殖そのものにも悪影響を与えます。定期的に養殖池の水を入れ替えるのですが、排出された水は周囲の水域を汚染します。そしてそれを繰り返すようにエビが育たなくなると、ついには養殖池を放棄し、再びマングローブ林などを伐採・開発して次の新しい養殖池を作るのです。これでは収奪的で持続不可能な養殖と言わざるを得ません。そしてもう一つ大きな問題は、地域社会への影響です。養殖が常に安定的にもうかるビジネスであれば良いのですが、販売価格は市場需要の影響を受けるのでむしろ不安定です。餌代や管理費用など、養殖は実はかなりコストがかかります。しかし、一般には天然水産物より安い価格となり、生産者が抱える経済的なリスクは少なくありません。そうしたこともあり、コスト削減のために環境対策がおろそかになったり、働く方の処遇が悪くなったり、労働安全性が軽視されるようになったり… そんなことがあっては困るのですが、現実にはそういう問題が今なお起きています。これは当事者にとって深刻な問題であるだけでなく、食の持続可能性という観点からも重大な問題です。「責任ある養殖」が持続可能性をもたらすこのように養殖には様々な問題やリスクがあります。けれどもいまや水産物の半分以上を占める養殖水産物は、今後の水産物需要、さらにはタンパク質需要を支えるためにも重要です。安易に行われる持続性のない養殖ではなく、持続可能性の高い、責任ある養殖に切り替えていく必要があります。そのためにはそれを原料や素材として使う川下側も、持続可能なものを選んで使用することが必要です。なぜなら使う側からの需要があれば、生産者も持続可能な養殖にするモチベーションが高まるからです。そのような持続可能な養殖水産物を使うとしたら、どうすれば見分けることができるのでしょうか?上に述べたようなことを一つひとつ確認することは現実には不可能でしょう。そのため、第三者が代わりに審査を行い、上記のような課題にしっかり配慮しながら養殖されたものには認証マークを付与する制度があります。もっとも代表的なものにASC(※Aquaculture Stewardship Council; 水産養殖管理協議会)によるASCラベルがあります。ASCは、環境と社会への影響を最小限に抑えた養殖場にASC認証を発行しており、そうした養殖場で育てられた水産物にはASCラベルを付与し、それが持続可能な水産物であることを消費者が簡単にわかる仕組みを構築しています。こうしたASCラベルの付いた養殖物を使用したり販売したりすることが、持続可能な養殖を推進する大きな力になるのです。なお、養殖においては、どのような配慮を行うべきかは水産物の種類ごとに異なります。ASCは現在までのところ、サケ、ブリ・スギ、淡水マス、スズキ・タイ・オオニベ、ティラピア、パンガシウス、二枚貝(カキ、ムール貝、アサリ、ホタテ)、アワビ、エビ、カレイ目の魚類、熱帯魚類、海藻の12種の魚介類を認証の対象​​としていますが、ニーズがあれば今後さらにこの種類は拡大されるでしょう。また、ASCラベルの使用にあたっては厳密なルールがありますので、ラベルのついた材料を使っているからと言って自社製品やメニューに勝手にラベルを使うことはできないので注意が必要です。※参考:https://jp.asc-aqua.org/次回の記事を読む:天然水産物を持続可能に利用するには?【食品企業のためのサステナブル経営(第11回)】

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サステナブル

解説|TNFDフレームワークとは?LEAPアプローチについても紹介

生物多様性の保全が国際的に叫ばれる中、日本の食品メーカーも、対応を求められています。TNFDフレームワークの概要や、情報開示の手法であるLEAPアプローチを理解するには、そこに至るまでの背景から理解することが必要です。こちらの記事では、これらの概念について詳しく解説します。TCFDフレームワークとの違いや、TNFDフレームワークにおける開示推奨項目、食品業界における企業の取り組み事例についても紹介します。ぜひ参考にしてみてください。TNFDフレームワークの概要|生物多様性を保全するための国際的な枠組みTNFDは、“Taskforce on Nature-related Financial Disclosures”の略称で、民間企業や金融機関などが参加し、自然資本や生物多様性に関するリスクと機会を評価・開示するための国際組織です。日本語では「自然関連財務情報開示タスクフォース」と訳されています。TNFDフレームワークとは、自然環境の変化や生物の多様性が企業活動にどのような影響を及ぼすのかという情報を開示するための枠組みです。パリ協定やSDGsに沿って生物多様性を保全・回復する活動に資金の流れを向け、世界経済が持続的に成長し、人々が繁栄を謳歌できるようにすることを目的としています。なお、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、2019年1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において着想されました。TCFDの情報開示フレームワークをベースにしているTNFDフレームワークのベースになっているのは、TCFDのフレームワーク(企業の気候変動に対する取り組みを可視化するための枠組み)です。TCFDは“Task Force on Climate-related Financial Disclosures”の略で、日本語では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と訳されています。気候変動問題に積極的に取り組む企業に世界中の投資家から資金が集まり、さらなる成長に繋がる「地球環境保護と成長の好循環」を実現することを目的とした国際組織です。TNFDフレームワークにおける開示推奨項目2023年9月に公開されたTNFDフレームワークv1.0では、以下に示す項目を開示することが推奨されています(※)。ガバナンス:自然に関連する依存、影響関係、リスクおよび機会に関する組織のガバナンスを開示する。戦略:自然関連の依存、影響関係、リスクおよび機会が組織のビジネスモデル、戦略、財務計画に及ぼす影響を、そのような情報が重要である場合には開示する。リスクとインパクト管理:自然関連の依存、影響関係、リスクおよび機会を特定、評価、優先順位付け、監視するために組織が使用するプロセスについて説明する。指標と目標:重要な依存、影響関係、リスク、機会を評価および管理するために使用される指標と目標を開示する。なお、TFNDの公式資料は英文となっているため、上記文言はPwC Japanグループによる日本語訳に準拠していることにご留意ください。正式な文言(英文)は、TNFDの公式サイトなどで確認しましょう。※参考1:TNFD公式サイト"Getting started with adoption of the TNFD recommendations Version 1.0"※参考2:PwC Japanグループ「TNFDフレームワークの概要と企業に求められることを解説」LEAPアプローチとは|情報開示のための4つのフェーズTNFDは、上述した項目を分析・開示するための手法として「LEAPアプローチ」を提唱しています。LEAPアプローチとは、自然関連のリスクや機会を統合的に評価し、情報を開示するための手順です。LEAPとは、「Locate」「Evaluate」「Assess」「Prepare」という4つのフェーズの頭文字をとったものです。ここでは、それぞれのフェーズについて詳しく説明します。1.Locateフェーズ|自然との接点の発見まず、どのような場所で自社(サプライチェーンを含む)が事業活動を展開しているのかを把握した上で、自然との接点(インターフェイス)を探します。そして、脆弱性の高い地域やセクターなど(たとえば、水不足によって日常生活が不便な地域)を特定します。2.Evaluateフェーズ|依存度と影響の診断次に、Locateフェーズで抽出した地域における事業活動が依存する(または、影響を及ぼす)自然資本・生態系サービスを特定してください。その上で、どのくらいの規模・程度なのか、内容がポジティブなものなのかネガティブなものなのかを診断しましょう。3.Assessフェーズ|重要なリスクと機会の評価ここまでのプロセスで把握した情報を踏まえてリスクを特定し、当該リスクに対して既に講じている軽減策や管理方法を確認してください。「リスク軽減の観点から不充分」と判断される場合は、追加的な方策を講じましょう。同時に「自社の事業活動にどのような機会がもたらされるか」も検討し、財務パフォーマンス(収益・コスト)や財務状況(資産・負債)に与える影響について分析してください。4.Prepareフェーズ|対応し報告するための準備Prepareフェーズは、「戦略とリソースの配分」「開示アクション」の2段階に分かれています。「戦略とリソースの配分」では、リスク・機会の分析結果を踏まえて、実施すべき戦略やリソース配分、目標、進捗度の定義・測定方法を決定しましょう。そして、「開示アクション」では、開示推奨事項を踏まえて「具体的に何を開示するのか」を決めた上で、報告書を作成・公表してください。SBTs for Natureとの違いSBTs (Science Based Targets) for Natureとは、生物多様性条約やSDGsなどに沿った行動を企業に促すためのフレームワークです。TNFDと似ているように感じるかもしれませんが、TNFDが「リスクおよび機会の特定」を主目的としているのに対し、SBTs for Natureは「目標設定」を主眼にしている点が異なります。食品業界における企業の取り組み事例以下、食品業界におけるTNFDフレームワークやLEAPアプローチの企業の取り組み事例を4つ紹介します。明治ホールディングス明治グループでは、TNFDフレームワークのLEAPアプローチに沿って、主要なカカオ生産地(13拠点)における自然関連リスク分析を実施し、森林減少や汚染などの回避・低減に向けて継続的に取り組む姿勢を示しています。詳細は、こちらからご確認ください。キリンホールディングスキリングループでは、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャン、ライオン、協和キリン、協和発酵バイオ、小岩井乳業の事業に関して、TCFDフレームワークやTNFDフレームワークに基づいて統合的な環境経営情報開示を実施しています。具体的には、従来の「キリングループ生物資源利用行動計画」に基づく活動や、国・地域で異なる水問題の解決に向けた活動に、「場所固有」「依存性」「自然への影響」という自然資本に関連する視点を加え、統合的アプローチを高度化していく姿勢を示しています。詳細は、こちらからご確認ください。アサヒグループホールディングスアサヒグループでは、2022年からTNFDフレームワークによる分析を開始しました。生物多様性の保全・回復に向けて「アサヒグループ環境ビジョン2050」を掲げ、水使用量削減に役立つアプリの開発、電気トラックでの配送、他社との共同配送、ラベルレスボトルの販売、PETボトルのリサイクルといった施策を講じています。詳細は、こちらからご確認ください。コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスは、環境ポリシーで「水を含めた自然資源を有効活用し、地球環境を持続可能な形で次の世代へ引き継いでいくことが重要な使命である」と定めています。2022年12月にTNFDフォーラム(TNFDでの議論をサポートする国際組織)に参画し、生物多様性保全への取り組みを強化しています。詳細は、こちらからご確認ください。まとめ近年、SDGs(持続可能な開発目標)やCSR(企業の社会的責任)、ESG経営(環境や社会、ガバナンスを考慮した経営)が重視されるようになり、TNFDフレームワークに沿った情報開示をする企業が国内でも増えてきています。今回は、TNFDフレームワークやLEAPアプローチとは何かを解説し、企業の取り組み事例を紹介しました。人類が長期的に経済的な発展を続けていくために、自然・生物多様性へのリスクを考慮し、対策を講じることはますます求められていくでしょう。

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サステナブル

これで問題解決?!ウナギの完全養殖【食品企業のためのサステナブル経営(第9回)】

前回の記事を読む:アニマルウェルフェアが人間にも役立つわけ【食品企業のためのサステナブル経営(第8回)】数週間前に、近畿大学がニホンウナギの完全養殖に成功したというニュース(※1)が流れました。これを聞いて、「えっ、ウナギって養殖じゃなかったの?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。あるいは、「完全養殖」という言葉に気がついた方は、「完全養殖は普通の養殖とどう違うのだろう?」と思われたかもしれません。完全養殖とは、養殖した親から生まれた卵由来の稚魚を養殖し、養殖環境下で繁殖サイクルが完全に回るようにできることです。一方で、通常の養殖ウナギの場合、人工養殖といっても稚魚は自然から採取した天然のシラスウナギであり、結局は貴重な自然の資源に依存しているのです。完全養殖ができるようになれば、天然のウナギ資源を損なうことなくウナギを利用することが可能になりますから、水産物の持続可能性のためには非常に大きな意味があるのです。※1 参考:ニホンウナギの完全養殖に大学として初めて成功 養殖用種苗(稚魚)としての実用化をめざし、今後さらに研究を継続「完全養殖」で、ウナギが今より安くなる?しかし、完全養殖は必ずしも容易なことではありません。近畿大学は完全養殖の研究と実用化に大変力を入れており、「近大マグロ」として有名になったクロマグロの他、マダイ、シマアジ、ブリ、カンパチ、トラフグ、ヒラメなどの高級魚の完全養殖に成功していますが、ウナギの稚魚は大変繊細で特に養殖が難しく、今回ようやく完全養殖に成功したのです。それでも天然のシラスウナギを養殖するよりも10倍以上のコストがかかるとのことで、商業化までにはまだ時間が必要そうです。そうは言っても、少なくとも技術的には完全養殖が可能になったわけですので、今後さらに研究が進んでコストが下がれば、自然の資源量を損なうことなくウナギを養殖することができるようになるでしょう。もしかすると、将来的には、今より安くウナギが食べられるようになるかもしれません。ところで、なぜ最近のようにウナギの価格が高騰したのかと言えば、それはもちろん天然のウナギが獲れなくなってしまったからです。成長したウナギはもちろんですが、シラスウナギの捕獲数も大幅に減ってしまっています(※2)。国内で捕獲されるシラスウナギの量は1960年代には200トン以上ありましたが、2000年代初頭にはその1/10にまで減少し、2019年には3.7トンと、かつての1/50以下にまで激減してしまっています。しかもこの傾向は一時的なものではなく、過去50年間一貫しているのです。当然このままでは絶滅も心配されます。2013年には環境省がニホンウナギを絶滅危惧IB類​​にカテゴリーを変更し、また2014年には国際自然保護連合 (IUCN) も絶滅危惧種 (EN) に指定しています。絶滅危惧種になっても食用が禁止されるわけではないので、捕獲数が少なくなった分、価格は上がります。今ではシラスウナギはキロ数百万円の価格で取引されることもあり、「白いダイヤ」とも呼ばれます。大金が動くとなると、そこには闇の勢力も介在するようになり、一説では国内で取引されるシラスウナギの4割が密猟や無報告のものであると疑われています。※2 参考:令和元年度 国際漁業資源の現況(水産研究・教育機構)水産業における養殖の重要性とは冬の夜に行われるシラスウナギ漁なぜこんなにもウナギの数が減ってしまったのでしょうか。最近は気候変動による水温上昇や海の中の環境変化の影響を理由に挙げるむきもありますが、1960年代以降減少していることを考えれば、どうやらそれだけではなさそうです。これまでウナギが生息場所としてきた田んぼやその周りの水路、さらには河川が整備されてウナギの住処に適さなくなったことなども原因とされます。しかし、やはり最大の原因は獲り過ぎ、食べ過ぎでしょう。今よりずっと価格が安かった昭和の頃でさえ、ウナギはしょっちゅう気軽に食べるものではなかったはずです。弁当や外食チェーンで気軽に食べるほどの資源量はもともとなかったのです。お客さまにおいしいものを安く提供するということは、食品産業において一見「正義」のようにも見えますが、そのために資源量を減らしてしまい、種を絶滅の淵に追いやっているとしたら、もう少し慎重に考える必要があるでしょう。そもそも資源がなくなってしまっては、そのビジネスをこの先続けることができないのですから。実はウナギに限らず、世界の水産資源は今や危機的な状況に陥っています。詳細はまた別の回に説明しますが、世界の漁獲高は毎年成長しているものの、そのうち天然水産物の漁獲高は1980年代後半からはほとんど成長しておらず、その分を養殖水産物が補っている状態です。(※3)※3 参考:FAO『世界漁業・養殖業白書2020』Fig.1逆に言えば、養殖水産物はこれからの食料資源として大きな可能性を秘めています。まだまだ開発余地、成長余地があることがまず一つの理由です。そして、これまでにも紹介したように牛肉などの肉類は環境負荷の大きさ故にこれ以上生産を増やすことができませんので、肉に代わるタンパク質の供給源としても期待されているのです。また、多くの地域で雇用を生むことができるという点でも期待されています。一方で今回ご紹介したウナギのように、完全養殖でなければ天然資源に依存することになりますし、また養殖して育てるためには、餌やエネルギーなどの資源も必要になります。それ以外にも、養殖であれば天然より常に環境や地域社会に与える負荷が少ないとは言い切れないのです。そこで今回の記事の結論として、「養殖であればなんでも良い、つまり持続可能というわけではない」ということをぜひ記憶しておいていただきたいと思います。それでも養殖が水産業において、また広く食品産業にとっても期待の星であることは間違いありません。ですので、それを正しく活用する方法について、次回以降さらに詳しく考えていきたいと思います。次回の記事を読む:持続可能な養殖水産物を使用する【食品企業のためのサステナブル経営(第10回)】

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サステナブル

アニマルウェルフェアが人間にも役立つわけ【食品企業のためのサステナブル経営(第8回)】

前回は、卵を例にアニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮したエシカルな食材であることが取引の条件になりつつあること、また、今後の持続的な経営を考えるためには、そうした原料へ移行する準備を進めていくことが必要であることをお話しいたしました。前回の記事を読む:卵はケージフリーが常識!?【食品企業のためのサステナブル経営(第7回)】環境や人間にも良い、アニマルウェルフェア今回はこのアニマルウェルフェアをさらに掘り下げていきたいと思います。というのも、日本ではまだマイナーな話題でしかないアニマルウェルフェアは、海外、特に欧州ではすっかりあたり前のことになっているからです。具体的に言うと、鶏だけでなく、牛や豚についても、狭いケージで育てることは法律で禁止されている場合もあります。あるいは、子牛と母牛に対する配慮も必要とされ、子牛が自然に乳離れするまでの生後半年間は母牛と一緒に育てることを求める場合などもあります。さらに、家畜を輸送したり、最後は屠畜する時も、動物の苦しみを最小限にすることを求めるなど、あらゆる場面において配慮が必要とされるのです。もちろんこうした配慮があったほうが良いであろうことは想像できると思いますが、本当にそこまで必要なのか、いたずらにコストを上昇させることになるのではないか、そう疑問に思う方も多いと思います。 アニマルウェルフェアは、エシカル(倫理的)な文脈から問題にされることが多いのですが、エシカルかどうかは絶対的なものではなく、価値観、特に文化的価値観が強く作用するのではないか、と思われる方も多いでしょう。たしかにそういう側面もあると思います。自分たちが信じる価値観、倫理観を優先するために、多少コストがかかるとしても守るべきだというわけです。逆に、そういう価値観、倫理が求められない市場においては、まだ対応する必要はないだろうという判断もあり得るわけです。けれど最近は、動物に快適な環境を用意することが、実は環境や人間の健康にも良いということが次第にわかってきたのです。 コロナの大流行の“原因”に目を向けるとこの3年間、私たちをさんざん悩ませ、苦しめた新型コロナウィルスは、もともとは野生動物由来のウィルスであったということをお聞きになったことがある方も多いでしょう。新型コロナ以外にもHIVエイズ、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)など新興の感染症がいろいろとありますが、これらはほとんどすべて、もともとは動物が持っていたウィルスに起因するものであり、それが人間に感染し発症していることが知られています。こうした感染症が増えているのは、人間と野生生物の距離が縮まってきたことが最大の理由であると言われています。 具体的には、たとえば森林開発により、これまで人間と接する機会が少なかった野生生物と人間が接する機会が増えたり、場合によっては、食料やペットとして野生生物を人間が直接利用するようになる機会も増えてきているのです。新型コロナウィルスの場合も、中国の海鮮市場(野生生物も扱う)が最初の発生場所であったと言われています。 そして、実はこうした未知のウィルスは130万種類以上あると科学的に予想されており、しかもそのうち80万種は人間に感染する能力があると考えられます。つまり、今のコロナが完全に収束しても、私たちが現在の生活やビジネスのスタイルを変えない限りは、第二、第三のコロナがいつ発生してもおかしくない状況なのです。人間・家畜・自然の健康を守る「ワンヘルス」そうした事態を防ぐためには、人間の健康を守るためには、野生生物を含めた生態系の健全性、そして家畜を健康に保つことが重要とされています。鳥インフルエンザや豚コレラを考えればわかるように、家畜もしばしばこうした感染症に感染し、場合によっては人間への媒介となるからです。つまり、私たちは人間、家畜、自然の3つの健康を同時に守る必要があるということで、ワンヘルス(one health)と呼ばれています。 前回、鶏卵に関連してお話しいたしましたが、アニマルウェルフェアの観点から鶏の生育環境を良くすることで、病気の発生や感染の確率を低くすることが科学的にも明らかになっています。こうしたことを考えると、人間の健康を守るためにも、人間が利用する動物、家畜などの飼育条件を改善することが倫理ではなく、実務の面から求められる時代が来るのもそう遠くないことかもしれません。次回の記事を読む:これで問題解決?!ウナギの「完全養殖」【食品企業のためのサステナブル経営(第9回)】