
食品企業がサステナビリティを考えなくてはいけないわけ【食品企業のためのサステナブル経営(第1回)】
はじめまして、サステナブル経営アドバイザーの足立直樹(株式会社レスポンスアビリティ代表)と申します。このたびシェアシマinfoで、「食品企業のためのサステナブル経営」というタイトルで連載をすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。今回が初回ですので、まず簡単に自己紹介を、そしてなぜこのような連載をするのかをお話ししたいと思います。
生態学研究者から環境経営コンサルタントへ
私は元は生態学という学問分野の研究者でした。学生時代から環境問題の解決に貢献したいと思っていたのですが、そのためには科学的なアプローチが有効だろうと考え、大学院で植物生態学を専攻しました。博士課程を修了した後は国立環境研究所というところに就職して、マレーシアの熱帯林の生態の研究プロジェクトに参加しました。熱帯には日本など温帯とは異なる独特の生態系があり、珍しい動植物もたくさんいます。その生態を研究することはとても楽しかったのですが、研究用に保護されている森の外ではどんどんと木が伐採され、またオイルパームのプランテーションも次々に拡大していました。このまま研究を続けていただけでは、研究は進んで熱帯林の仕組みがより詳しくわかるようにはなるだろうけれど、肝心の熱帯林がなくなってしまう。そんなことが心配になり、日本に帰国したのを機に、独立して企業向けにコンサルティングをすることにしました。2002年のことです。
当時すでに大手製造メーカーは「環境経営」を標榜するようになっていましたが、実際には海外の生態系まで配慮するような企業はほとんどありませんでした。その後わりとすぐにオイルパームのプランテーションの乱開発が国際的に問題視されるようになり、欧州の企業を中心に国際的な取り組みが進みました。けれども残念ながら日本企業の関心は低く、取り組みも遅れがちでした。そんな腰の重い日本の企業に国際的な流れを紹介しながら、なんとか取り組みを進めてもらった20年間でした。その間に国際企業の関心や取り組みはずいぶん進みましたが、問題の方もいよいよ抜き差しならなくなって来ているというのが現状です。
食品産業が環境に与える負の影響とは
実は食品産業も、環境問題に大きな影響、しかもマイナスの影響を与えている産業の一つなのですが、国内ではまだ取り組みがほとんど進んでいないのが現状です。意外だと思う方も多いかもしれません。食品工場は重工業などと比べればあまり環境問題の原因にはなりそうに見えませんし、上流の農業はさらにのどかな感じがします。しかも、基本的には人間が食べるもの、緑の植物を作っているのですから、むしろグリーンな産業であるイメージがあるでしょう。しかし、実際によく調べてみると、農業や水産業を含めた食品産業は環境への負の影響が非常に大きなセクターなのです。
これに関連して、2021年秋に国連はフードシステムサミットを開催しました。その際にグテーレス事務総長は、こう言いました。「気候変動の原因になっている温室効果ガスの4分の1から最大3分の1、生物多様性の喪失の80%、淡水資源の消費の70%の原因はフードシステムにある。」 なんと、食品産業が主要な環境問題の原因だったのです! しかしこれは、食品産業がものすごく有害な化学物質を垂れ流しているとか、そういう理由からではなく、80億人の世界人口を支えなくてはいけないので、その負荷の総和がとても大きくなるということなのです。
100億人の地球、サステナブル経営は必須の時代に
けれど、世界人口はこれからさらに増え続けます。2050年までには95億人に達すると言われますが、それを支えるのは今のフードシステムでは無理なのははっきりしています。なので、「これからフードシステムを大きく変革する必要がある」とグテーレス事務総長は呼びかけました。けれど、それは可能である。フードシステムは問題の原因であるだけでなく、問題の解決方法になることもできるのだ。そう事務総長は付け加えました。
この言葉が、この連載が必要な理由をすべて説明しています。日本ではまだあまり知られていませんが、世界的にはフードシステムを持続可能にすることが最大の課題の一つであり、そのためにすでに様々な取り組みが始まっています。今や食品企業がサステナビリティを考えないことはあり得ません。また、食品企業が自社を生き残らせるためにも、サステナビリティを十分に考えた経営を行わないわけにはいかないのです。
この連載ではこれから、どうしたらサステナブルな食品企業の経営ができるかを、いろいろな角度から解説していきたいと思います。どうぞご期待ください。
次回の記事を読む:パームオイルにまつわる問題【食品企業のためのサステナブル経営(第2回)】